今は龍の血は薄まったが、それでも村人は龍の血を誇りとし、大ムカデが討たれた今でも周囲との交流を避けて暮らしていた。
「龍、かあ……」
 眞白はため息をついた。
 この村ではごくまれに龍に変化できるものが生まれる。
 今はふたり、眞白と沙代だ。
 だが、自分と姉には決定的な差がある。
 それが自分たちに致命的な差を生んだ。
「今は外国からたくさんの物が入って来てて、街の人は半分くらい洋装なんだって。洋装ってどんななのかな。帝も皇子様も洋装だって聞いたわ。そんな時代に龍なんて、ねえ?」
 眞白はため息をつき、村に戻る。コウヤは首をかくかくさせながらついて歩いて来た。
 村は活気に満ちていた。歓迎の準備はほぼ終わり、確認作業でせわしく人が行きかっている。
 顔を伏せてはばかるように歩いていると、どん、と人とぶつかった。かごをひっくりかえして仰向けに転んでしまう。
「あら、誰かと思ったら出来損ないで嘘つきの眞白じゃない」
 嘲る声に、眞白は顔をひきつらせた。体を起こすが、まわりを三人の女性に囲まれて立ち上がれない。囲む三人はそびえるように見えて、すくんでしまう。
「なにをさぼってんの」
「都からお使いが来るってのに」
「あいかわず気持ちの悪い見た目! 老婆みたい!」
 沙代と同年の彼女らはいつも沙代と一緒に眞白を罵る。彼女がいなくても眞白を罵る。あとで得意げに報告して沙代の機嫌をとるのだろう。
「野草を取りに行って来たんです」
「なあに、聞こえないわ!」
 言いながら、彼女はかごからこぼれた野草を踏みにじる。