金の龍皇子は銀龍の娘を花嫁に乞う

「では、お願いしますね」
 眞白が懐中時計を差し出すと、ふたりはほっとした顔で受け取り、立ち去った。
 台所へ行くと数人の女性の使用人が話していた。なんとなく入りづらくて、立ち止まってしまう。
「ねえ、沙代様、見てない?」
 ひとりが言うと、べつのひとりが首をふった。
「謹慎を言われてたんじゃなかった?」
「お部屋に伺ったらいなかったのよ」
「でもあんな人、いないほうがいいわ」
「そうよねえ。気分で殴って、ひどいったらないわ」
「眞白様への虐待もひどいわ」
「ほんとほんと。眞白様にやり返されるのが怖くて逃げたんだったりして」
 くすくす笑う彼女らに薄暗いものを感じ、眞白は眉をひそめた。
 彼女たちは今まで眞白を非難し、沙代の味方をしていた。こんな簡単に掌を返すなんて。
「あの」
 話しかけると、彼女らはびくっと震えた。
「お姉様がいないって、本当ですか?」
 使用人は媚を売るように笑みを浮かべた。
「あんな人、気にしなくていいんですよ」
「今は皇子様のことをお考えになって」
 眞白は顔をしかめた。姉の心配をする人がひとりもいないなんて。
 そんな苦しみは嫌と言うほど味わってきた。誰からも無視され、罵られ、心配してくれない。そんな苦しみを、姉も味わうのだろうか。