金の龍皇子は銀龍の娘を花嫁に乞う

「ありがとうございます。そろそろ夕餉の御仕度に参りますので、虹夜様はお湯を召していらしてください」
「わかった。わずかなりとも離れたくはないのだがな」
 言って、虹夜は立ち上がった。

 台所に向かった眞白は、通りすがった使用人に声をかけられた。
「眞白様、お探しいたしました」
 振り返るとふたりの使用人がいた。
 ひとりは頬が腫れていて、大丈夫かと聞きそうになった。が、ふだんは余計な口をきくなと言われているから、つい言葉を飲み込んでしまう。
「か、懐中時計をお持ちではないですか。皇子様の……」
 ひとりに尋ねられた。
「ええ、あります」
 眞白は懐に手を当て、答えた。
「あの、皇子様が、いったんお戻し頂きたいとおっしゃっていて」
「今はお風呂をお召しでは?」
「え、それで、その、お風呂には時計がないものですから」
 言い訳のような言葉に、眞白は首をかしげる。
「私も聞きました。本当です」
 すがるように言う使用人に、違和感を覚える。が、皇子の命令を聞かなくてはならない、という緊張のせいだろうか。
「では、私が届けに参ります」
「ダメです、皇子様が入られているのに!」
 慌てて遮られ、それもそうだ、と眞白は思う。