金の龍皇子は銀龍の娘を花嫁に乞う

「眞白のものは私のものよ」
「ですが……」
 口ごもる使用人に、沙代は手を振り上げた。
 ばし! という音ののち、使用人は頬に手を当て、痛みに震える。
「あんたたちなんて銀の龍の力でなんとでもなるんだから!」
 彼女らは怯えて了承するしかできなかった。
 立ち去る彼女らを見送り、沙代はいらいらする。
 眞白ごときに「様」をつけるなんて。使用人ごときが逆うなんて。私は村長の娘で、銀の龍の化身なのに! 幻でも銀の龍を出せるのがその証拠。眞白なんて偽物よ!
 沙代は不機嫌に部屋に戻る。部屋は荒れていて――荒したのは自分なのだが――それでまたいらいらした。

***

 おかしい。
 いつもはなにかとからんでくる姉が、今日はまったくからんでこない。
 彼がいるせいだろうか、と、眞白は飽きずに自分を抱きしめる虹夜を見る。
 目があうと、彼は甘やかに笑んだ。
 眞白は慌てて目をそらす。心臓がどきどきして、治まらない。
 夏の暑さにかまわず、彼はずっと自分を抱きしめている。
「早くお前に都を見せたい」
 虹夜は声に甘さを含ませて言う。