金の龍皇子は銀龍の娘を花嫁に乞う

 いつも、いらいらしたときは眞白か使用人をぶって憂さを晴らしていた。痛そうにうめくさまを見ると胸がすかっとした。
だが、今はそれができない。
 小さいころから眞白は大嫌いだった。それまで自分だけのものだったのに、あいつが生まれたせいで両親や祖父母が自分をかまわなくなった。村人たちも自分より赤ちゃんの眞白をかまった。
 みんなの愛を奪ったあいつが憎かった。
 何歳頃だっただろうか。
 舞を舞わせたら自分よりほめられたのがむかついた。眞白が一生懸命練習し、自分がさぼっていたという事実に、沙代はいまだに気付いていない。
 さらに、眞白が白い龍になったのも気に入らなかった。
 トカゲみたいな小さな龍。だけど村中が喜び、「成長すれば銀の龍になるかもしれない」と期待にあふれた。
 沙代の怒りは頂点に達した。
 眞白を物陰に呼び出し、張り倒した。
「あんたなんか龍じゃない! 私が銀の龍になるの!」
 叫んだ直後、なにかの力がわいてくるのがわかった。
 感情のままにそれを発出し、自分の頭上に銀の龍が現れていることに気が付いた。
 本能で、それが幻術であることがわかった。
「やっぱり私が銀の龍だわ!」
 すぐ、みんなに自分が銀の龍であると言って幻の銀龍を見せた。村人たちは歓喜し、ふたりも龍に変化できるものが現れた、と喜んだ。銀の龍が見えている間、村人には沙代が見えていないようだった。
 だが、眞白だけは違った。誰もいなくなったあと、こそっと沙代に尋ねてきた。
「お姉様、どうして銀の龍がいるなんて嘘を言うの?」
 だから沙代はまた眞白の頬をぶった。