金の龍皇子は銀龍の娘を花嫁に乞う

「お前の好きな物はなんでも用意する。まずは服だな。振袖もドレスもよく似合うだろう。好物はなんだ? 西洋のものも珍しいであろう。ケーキは食べたことあるか? きっと気にいるぞ。ああ、今は指輪が流行っていてな。お前にも必ず買おう。いや、かんざしがいいか? 両方買えば問題ないな」
 返事をする間もなく彼は言い募り、眞白はただ聞いているしかなかった。
「ああ、じれったい。今すぐ都に行こう」
「今ですか?」
 戸惑う眞白に、虹夜が重ねる。
「この村になんの未練がある? お前を虐げる者たちばかりであろう?」
 見抜いた虹夜に、眞白は驚いて彼を見る。
「鳥が唯一の友達であるなど、心を許せる者がひとりもいなかったのであろう。着物が汚れたまま連れて来られたお前を見て、普段の扱いは察しがついた。つらかったな」
 労りの声に、つい涙腺がゆるんだ。ほろりとこぼれた涙を、彼の長い指が拭う。
「俺の嫁となったからにはもうつらい思いはさせない。幸せになる覚悟をせよ」
 告げられた言葉に、眞白は我慢できずに声を漏らして泣いた。

***

 沙代は面白くなかった。
 幻術が見破られ、よりによって眞白が嫁に選ばれるなんて。
 辰彦から部屋での謹慎を命じられたのが気に入らない。眞白に上等な着物が与えられたのも気に入らない。
 自室の飾り棚にあるものをなぎはらい、ふすまを切り裂き、それでも憂さは晴れない。
 昨日まで自分にぺこぺこしていた使用人たちはいっさい近寄らない。