「料理をする姿も見たいものだ。いいか?」
「もちろんでございます」
辰彦が答え、眞白は内心でため息をついた。
台所でも夜虹はにこにこと眞白を眺めてくるから、落ち着かなかった。
かつて祖母と料理をしたことがあったからそれを思い出し、おいしくなりますように、と祈りをこめて作った。
粗末で見目の悪い料理になったが、虹夜は大喜びだった。眞白も食事がまだだったので、一緒に食べる。味のバランスが悪くて、とうてい尊い方の口に合うとは思えなかったのだが。
「心がこもっていてうまい。お前にはやらんぞ」
虹夜はご満悦で雨刻に言う。
「わかっております」
うんざりと雨刻が答える。
食事を終えると、片付けは使用人が行い、虹夜はまたべったりと後ろから眞白を捕まえる。
眞白はどうしていいのかわからなかった。
これは彼が自分をツガイだと思っているからだ。世に言う愛ではないのだろう。
だけど、ぬくもりを心地よく感じてしまう。彼が愛してくれるのでは、と期待してしまう。きっとそんなわけはないのに。
「そうだ、これをやろう」
彼は懐から金の蓋のついた円形のものを取りだした。手のひらに受け取り、眞白はまじまじと見る。
「これは……懐中時計ですね」
「そうだ。皇家の金の龍が描かれている」
この国の象徴でもある金の龍は縁起物として各所に使われるが、庶民に許されるのは三本の爪の龍だ。皇族や高位貴族ならば四本の爪の龍が許される。五本爪の龍の意匠は帝と皇太子、その妃しか使えない。だから、彼が持っていた金の時計に描かれている龍には五本の爪があった。その瞳に象眼されているのはダイヤモンドだ。
「もちろんでございます」
辰彦が答え、眞白は内心でため息をついた。
台所でも夜虹はにこにこと眞白を眺めてくるから、落ち着かなかった。
かつて祖母と料理をしたことがあったからそれを思い出し、おいしくなりますように、と祈りをこめて作った。
粗末で見目の悪い料理になったが、虹夜は大喜びだった。眞白も食事がまだだったので、一緒に食べる。味のバランスが悪くて、とうてい尊い方の口に合うとは思えなかったのだが。
「心がこもっていてうまい。お前にはやらんぞ」
虹夜はご満悦で雨刻に言う。
「わかっております」
うんざりと雨刻が答える。
食事を終えると、片付けは使用人が行い、虹夜はまたべったりと後ろから眞白を捕まえる。
眞白はどうしていいのかわからなかった。
これは彼が自分をツガイだと思っているからだ。世に言う愛ではないのだろう。
だけど、ぬくもりを心地よく感じてしまう。彼が愛してくれるのでは、と期待してしまう。きっとそんなわけはないのに。
「そうだ、これをやろう」
彼は懐から金の蓋のついた円形のものを取りだした。手のひらに受け取り、眞白はまじまじと見る。
「これは……懐中時計ですね」
「そうだ。皇家の金の龍が描かれている」
この国の象徴でもある金の龍は縁起物として各所に使われるが、庶民に許されるのは三本の爪の龍だ。皇族や高位貴族ならば四本の爪の龍が許される。五本爪の龍の意匠は帝と皇太子、その妃しか使えない。だから、彼が持っていた金の時計に描かれている龍には五本の爪があった。その瞳に象眼されているのはダイヤモンドだ。



