「私も少しは舞えるのよ。昔ね、これで暴れる龍を鎮めたんだって。見て、コウヤ」
 眞白は立ち上がり、指先までピンと伸ばして最初の構えを取った。記憶の中の楽の音を口ずさんで優雅に見えるように腕を動かし、足をなめらかに移動させる。
 こうしていると、なにもかもを忘れられる。継ぎのあたった粗末な着物であることも、自分の境遇も、なにもかも。
 舞を終えてコウヤを見ると、彼は我関せずと言った様子で地面を足で掘ってはつついていた。
 眞白はふふっと笑う。マイペースな彼が愛おしい。
「あなただけよ、私の友達は」
 村中から見下されている自分は、雛の頃に拾って育てたコウヤだけが友達だった。
ケガをしていた彼を連れ帰り、こっそりと飼った。見つかれば食べられてしまうからだ。治ったあとは野に返そうとしたが、すっかり懐いて離れなくなった。今では雉を飼っているのを村中に知られているが、誰も眞白にかまいたくないので放置されている。
「あなたはこの国の皇子様の名前をいただいたの。って、わかんないよね」
 眞白はまたふふっと笑った。
 がさっと草を踏み分ける音がして、眞白は体を硬直させた。
 この森は深く、めったに人はこない。
「もし……」
 かけられた声に、警戒が強くなる。
 五人の男がいて、困ったような顔をしていた。
「このあたりに龍の末裔が住む村があるとか。ご存じありませんか?」
 男のひとりが言い、眞白は顔をひきつらせた。
「知りません。私はあっちの村から来たので」
 行ったことのない隣村を指し、眞白は言う。