雨刻は話もうまく、楽しいひとときとなった。
 問題はそのあとに起きた。
 足音荒く戻って来た夜光が、障子を勢いよく開ける。
 ばしん! と音がして、沙代はびくっとした。
「嘆きの元になった娘を呼べ」
「どうされましたか、夜光殿」
 雨刻がなだめるように言うが、夜光は苛立ちを隠さない。
「いいから呼べ! お前たち、知っているだろう!」
 怒りを含んだ声に、辰彦は怯えた。
「嘆きの元、とは……」
「あの料理だ!」
 いらいらと夜光が言う。
「眞白じゃないの?」
 沙代の言葉に、辰彦ははっとする。
「少々お待ちください」
 辰彦は慌てて部屋を出ていく。
 いらいらする夜光に、沙代もまたいらいらした。
 目の前にこんなに良い娘がいるのに、どうして彼は私を見ないのだろう。村の男どもはみんな私のご機嫌をとるというのに。
「お待たせいたしました」
 連れて来られた眞白はあいかわらず薄汚れていた。雉の汁で着物にしみができており、あちこちに泥がついている。縁側で正座し、おどおどと部屋を見て、それから夜光を見て驚いた顔になった。
 こいつのせいで、と沙代は眞白をにらんだ。
 こいつが雉ごときに泣いたせいで、料理が穢れたんだ。