「恐縮ですが、我らは龍の血を引いているため、穢れの含まれた膳をいただくことはできません。下げていただけますか」
 雨刻の言葉に、辰彦は慌てて平伏した。
「事前に御通達いただきましたのに至りませず、申し訳ございません」
「すぐにお作り直しいたします!」
 母も平伏する。
 沙代もしぶしぶ続いた。
 穢れてるってなに? だったら、この膳が平気な私は龍の血をひいていないってこと?
「それには及ばない。供された食事を拒むなど、我らこそ礼を欠いている。申し訳ない」
 雨刻は軽く頭を下げ、両親がまた頭を深く下げた。
 沙代はムッとしながらそれに合わせた。
 なんであっちは軽く頭を下げるだけなの。それに、夜光はまったく頭を下げない。どうしてこんなに態度がでかいの。自分は銀龍であり、将来は皇子と結婚する。となればこの人なんて自分より身分が低くなるのに。
「外の空気を吸って来る」
 夜光はそう言い、席を立った。
「お気をつけを」
「わかっている」
 夜光は言い捨て、部屋を出た。
 残された沙代は興ざめし、両親とともに雨刻の接待をする。
 夜光はどうせ、ただの使者だ。
 十九歳だという皇子はきっと彼より素敵に違いない。
 だから雨刻に自分の素晴らしさを皇子に伝えてもらわないと。
 沙代は媚びるように笑みを浮かべ、雨刻を見つめた。