その後は着替え、使者をもてなすために広間へと向かう。
 すでに使者の代表二名が上座に座っていた。
 ひとりは三十過ぎの男に見えた。もうひとりは先ほどの麗しい青年だ。
 近くで見る彼は、ひときわ輝いて見えた。黒髪は艶やかで、黒い瞳は闇よりも深く透き通っている。光の加減で金色に見えるのが神秘的だ。しなやかな体躯は細身ながらも男らしく、隣に座す使者の代表よりも存在感があった。
下座に両親がいたから、その隣に座る。
「お待たせいたしました。沙代でございます」
 沙代が挨拶をしたのち、辰彦が続ける。
「改めて、このたびはようこそおいでくださいました」
 両親が頭を下げるから、沙代も頭を下げた。
塔堂雨刻(とうどううこく)です。この者は夜光(やこう)
 使者の代表が名乗り、若者を紹介した。
 夜光にじろりと見られ、沙代はぽっと頬を染めた。皇子は見目麗しいと評判だが、見たことのない皇子より彼のほうが麗しく思える。彼に見初められて結婚したら都に行けるだろう。皇子より彼のほうがいいかもしれない、と頭をかすめる。
「辺鄙な村ではありますが、できる限りのものを用意しました。どうぞごゆるりとおくつろぎください」
 辰彦が言うと、縁側の障子がすっと開き、使用人たちが料理を運んでくる。
 膳を置かれた夜光は嫌悪に顔をしかめた。
「どうされました、夜光殿」
 雨刻が夜光に尋ねる。
「穢れている。特にこの椀。嘆きが入っている」
 沙代はきょとんとした。いったいなにを言っているのだろう。