村人の奏でる笛と太鼓に合わせ、沙代は舞う。
 最前席には都から来た洋装の使者たちが並んでいた。あれは軍服と言うのだと辰彦が言っていた。揃いの黒い衣装は威圧的だが、同時に威厳があってそれだけで見惚れる。
 全員が腰に拳銃を下げているのもハイカラな感じがしてわくわくした。
 中心に座るのは見目のよい黒髪の若者だった。彼だけは銃ではなく太刀を下げている。
 ああ、なんて素敵な方なの。
 沙代は一瞬で心を奪われた。舞の手が違っても気にする余裕などない。
 洋装が彼のひきしまった体をより逞しく見せ、ピンと伸びた背筋が毅然としていてそれだけで見惚れる。きりりとした顔立ちはこの村どころか街ですら見たことがない。黒髪は優雅に流れ、黒曜の瞳はどんな宝玉よりも沙代を魅了する。洗練された空気感が、それだけで彼を上級の人間だと知らしめていた。
 沙代は彼に気に入られようと、目線を送りながらあでやかに舞った。
 そうして、舞の終盤。
 沙代は曲の終了と共に両手を天高く掲げる。
 その姿がおぼろにほどけた。
 直後、空中に銀の龍が現れる。
 村人たちからは歓声が、使者からはどよめきが起きた。
 銀の龍はひととき宙に留まったあと、するりと空気に溶ける。
 地上に目を戻した人々は、舞台に沙代の姿が戻っているのを見た。
 わあっと再びの歓声が沸き、沙代を拍手が包む。
 沙代は丁寧に頭を下げ、ちらりと青年を見る。
 使者の一行もゆったりと拍手を送っているが、彼だけは拍手をすることなく眉を寄せている。
 拍手を忘れるほど見惚れたのね。
 沙代は満足げな笑みを彼に送り、舞台を降りた。