姉の機嫌を損ねたくないのだ。将来の自分たちの待遇を考えて。と同時に恐怖もある。沙代が銀の龍の力をふるえばこの村などひとたまりもないだろうから。
 ばん! と厩の扉が開いた。
 女性の使用人がずかずかと入って来て、眞白に「来い」と命じる。
 眞白はのろのろと命令に従い、言われるままに厩を出た。
 外にはもうひとりの女性使用人がいた。椀の載った盆を持っている。
 後ろには舞の衣装を着た沙代が控えていた。白い衣に赤い袴、銀の龍の刺繍の入った薄い羽織。頭には龍を象徴する飾りのついた銀の天冠があり、手には衣装に不似合いな鞭を持っている。
「今日は特別に料理をふるまってあげるわ」
 沙代の言葉に、使用人が盆を差し出す。
 眞白は顔を青ざめさせ、首を振った。
 普段の沙代は眞白に食事を与えなくていいと言っている。だから眞白はいつも残り物を食べるしかなかった。その沙代がわざわざ持って来るなんて、異常だ。
 きっと、あの椀に入っているのは、きっと……。
 使用人が目の前に椀を差し出すが、顔を背ける。
 おいしそうな匂いに、吐き気がした。友達を食べるなんて、絶対にしたくない。
「食べないと、こうよ!」
 沙代は鞭で、眞白を連れ出した使用人を鞭うった。
「痛い!」
 鞭うたれた彼女は、信じられない、という顔で沙代を見た。
「早く食べなさいよ、愚図!」
 沙代がまた鞭を打ち、使用人が悲鳴を上げた。
 眞白は愕然とそれを見ていたが、ぐいっと頭を掴まれて我に返った。
「早く食べて!」
 仲間を助けるためか、椀を持った使用人が蓋をあけて眞白の口につける。