夏至を過ぎたあとは日が短くなるのに、どうして暑さは盛りとなるのか。
 天上眞白(あまがみ ましろ)は恨みがましく空を見上げる。ひとつに結んだ白い髪が揺れ、銀色の目が眩しさに細まった。綿の着物は汗を吸ってびしょびしょだ。
 木々の狭間から覗く空は青く、濃く白い雲が厚みを帯びて浮かんでいる。
 汗を拭い、彼女は下生えの中から野草を選んでは摘んで、かごに入れる。
 隣にいた雉は、引き抜く際に掘り起こされた地面から顔を出したミミズを見つけ、嬉しそうについばんだ。
「コウヤ、今日はすごい人が来るんだって」
 呼ばれた雉は彼女を向くことなく地面をつつく。雄の彼は顔が赤く、胴はきらめく緑色をしていた。茶褐色の翼と尾羽は縞模様があって美しい。
「都の使いなのよ。お姉様が皇子(みこ)様の運命のツガイなのかを確認に来るんだって。お姉様は龍鎮めの舞でもてなすのよ」
 今夕、姉の沙代(さよ)の舞のあとには歓迎の祝宴を開く。
 そのために野草を採って来いと命じられたのだ。
 一八歳の姉と、一六歳の自分。同じ人を父母としているのに、命じる側と命じられる側にわかれてしまった。
「いい? フキノトウとかワラビとか、おいしいものをとってくるのよ」
 それらは春しか取れない。なのにそう命じられた。こんな意地悪はいつものことだ。
 帰ったらいつもの折檻が待っているだろう。それでも野草を摘む。少しでも受ける暴力が減るように、眞白はそう努力するほかないのだ。
 祖父母の生前は、眞白はまともに扱ってもらえていた。読み書きも教えてもらえたし、舞も教えてもらえた。