次の日から、旧音楽室に悠真は来なくなった。

結衣も、行けなかった。あのときの乃々香の涙が、心に深く残っていて。
あれから、悠真とも、乃々香とも、ほとんど言葉を交わしていない。

ただ、教室の中で視線が合うと、悠真は少しだけ微笑んだ。

でもそれだけ。
まるで、何かを距離で守ろうとしているように。

そんな中で迎えた、金曜日の放課後。
結衣は、ひとりで旧音楽室の前に立っていた。

ドアに手をかける。でも、開けられなかった。

――ここに入って、また誰かを傷つけたら?

それでも、心の奥で響いていた。

(……会いたい)

静かにドアを開けると、そこにいたのは――

「……結衣?」

悠真だった。

まるで偶然のように、でもきっと、お互いがどこかで願っていた再会。

「どうして……」

「なんとなく。もしかしたら、君が来るような気がしたんだ」

結衣の胸が、静かに高鳴った。

ふたりきりの音楽室。
それでも、どこか以前とは違っていた。

間に流れる沈黙が、やさしくて、でも切なくて。

「俺……やっぱり、君と会いたいと思ってた」

そう告げた悠真の声に、結衣は、小さくうなずいた。

「私も……そう思ってた」

たったそれだけで、涙がにじみそうになった。

恋が始まるって、きっとこういうことだ――

そう思えた瞬間だった。