「……どうして、悠真がここにいるか、知ってる」

乃々香の声は静かだった。けれど、その目は結衣をまっすぐに見つめていた。

「結衣ちゃん」

「……うん」

「……悠真と、こんなふうに二人でいるなんて、知らなかった」

その場の空気が一瞬で張り詰めた。悠真が口を開きかけたが、それを遮るように乃々香が続ける。

「でも……本当は、気づいてたの。最近、悠真の目が、私じゃない誰かを見てるって」

その言葉に、結衣の心がざわめく。

「私、ずっと悠真の隣にいたんだよ? 小さいころから、ずっと、ずっと」

声が震えていた。

「なのに、結衣ちゃんが現れてから、悠真が遠くなった気がして……怖かったの。私の知ってる悠真が、どんどん変わっていくみたいで」

悠真がそっと立ち上がり、乃々香の肩に手を置いた。

「乃々香、ごめん。でも俺……」

その言葉を、乃々香は聞きたくないように、かぶせるように叫んだ。

「……まだ、終わりにしたくないよ」

結衣は、何も言えなかった。

ただ、そこに立ち尽くしていた。自分の存在が、ふたりの関係を壊してしまったようで――

音楽室の夕焼けが、やけにまぶしかった。