それから数日、悠真と結衣は放課後に旧音楽室で過ごすようになった。

悠真はピアノこそ弾けなかったけれど、結衣の演奏を静かに聴いてくれた。
時折「それ、なんて曲?」と尋ねてくる彼に、結衣は少しずつ、自分の言葉で答えるようになった。

「……これは自分で作ったの。途中までだけど」

「えっ、すごいじゃん。作曲とかできるの?」

「……できるってほどじゃないけど。でも、昔からこうやって音で気持ちを整理してるかも」

「音で、気持ち……そっか」

悠真は黙って結衣の指の動きを見つめていた。
ピアノの音に、彼女の心がこもっているのがわかる。だからこそ、聴いていたくなる。

そんなふたりを、教室の窓の外から見ている視線があった。
乃々香だった。

彼女は、悠真が誰かと親しく話している姿を見るのが、どうしようもなく苦しかった。

(でも、言えない。だって私は――)

乃々香は、自分の胸の奥でずっと抑え続けていた“想い”に、初めて気づいてしまっていた。