冬が近づいていた。

窓の外はすっかり冷たくなり、結衣はコートのポケットに手を入れて歩く。

悠真との日々は、少しずつ「ふつう」になっていった。

それは安心でもあり、どこか不安でもあった。

ある日、乃々香が言った。

「ねぇ、進路、決めた?」

「え?」

「うちのクラス、進学と就職で、いろいろ別れちゃうじゃん。悠真って、音大、受けるんでしょ?」

「うん……私は、まだ迷ってる」

乃々香が、ほんの少し寂しそうに笑った。

「ねえ。別れがくるってわかってても、誰かを好きでいられるのかな」

その問いに、答えられなかった。

けれど、心の奥で、何かが静かに始まっていた。