文化祭当日。
体育館の隅で、結衣は息を整えていた。

舞台裏で、緊張した表情の乃々香と目が合う。

「ねえ……がんばってね」

「……うん、乃々香さんも」

乃々香は別のステージで、演劇の主役を務めることになっていた。
あの明るく強い笑顔は、誰よりもステージにふさわしかった。

けれど、彼女が最後に言った一言が、結衣の胸を締めつける。

「ステージってさ、立つと怖いけど……好きな人に見てもらえるなら、ちょっとだけ勇気出せるよね」

それは、過去の想いにさよならするような、強くて優しい言葉だった。

舞台は、ふたりだけのものじゃない。

それぞれの想いが交差する日――文化祭は、始まった。