秋の気配が教室を包み始めたころ。
学校では、文化祭の準備が本格的に始まっていた。

「うちのクラス、劇じゃなくて音楽発表に決まったんだって」

その知らせに、結衣の心が小さく波打った。

「ねぇ、悠真。ピアノ……弾いてくれる?」

「……いいのか? 俺で」

「悠真じゃなきゃ、だめだよ」

迷いなくそう言えたのは、悠真がいつもそばにいてくれると知っているから。

クラスのテーマは「四季の旋律」。
季節ごとの楽曲を組み合わせた小さな音楽劇。

ピアノを中心に、ナレーションや朗読も交えて、まるでひとつの物語のように。

悠真の提案で、ラストの“春”の曲は、オリジナルにしようという話になった。

「……それ、君と出会った季節だよな」

「うん、だから、私……少しだけ歌ってみたい」

結衣の言葉に、悠真は目を見開いた。

「歌……?」

「怖いけど、やってみたいの。悠真の音で……私の想いを、届けたい」

ふたりの物語は、新しい音を探し始めた。