「付き合ってください」

そう言ったのは悠真だった。
「うん」と答えたのは、もちろん結衣。

だけど、「付き合う」って、どうすればいいのだろう。

次の日の朝、教室に入ると、ふたりは少しだけ気まずいような笑顔を交わした。

「……おはよう」

「おはよう、結衣」

それだけで心がぽかぽかする。だけど、隣の席なのに、なぜか距離を感じてしまうのはどうしてだろう。

昼休み、乃々香がふとやってきた。

「結衣ちゃん。おめでとう」

「え……」

「悠真が、誰を見てるか、ちゃんとわかったから。だから、もう……いいんだ」

乃々香はそう言って、柔らかく笑った。その笑顔に、結衣はまた少し、胸を締めつけられた。



放課後。旧音楽室。

悠真がぎこちなく笑って、言った。

「……恋人同士って、何を話せばいいんだろうな」

「私も……はじめてだから、わからない」

ふたりで、くすりと笑った。

それだけで、少し安心できた。

今日も、悠真はピアノを弾いてくれた。

「これは……恋人のための曲」

「……ちょっと恥ずかしいね」

けれど、音に包まれながら、ふたりは確かに――「恋」を始めていた。