朝起きたら、枕元になんか置いてあった。
「必読って書いてある……」
読んでみると、たぶんお母さんの字で、わたしの今の状況とか、前向性健忘っていう病気についてとか、この日記についてとか、いろいろ書いてあった。
ああ、「この家なんかすごい変わってる!?」って思ったのはそういうことか。
スマホは中学校の入学祝いに買ってもらったらしい。お母さんとは違う字で書いてあった。
「おはよ〜」
「おはよう。日記に貼ってあった紙、見た?」
「うん!なんかよくわかんないけど、見たよ」
どうやら今のわたしについては、あの紙にぜんぶ書いてあるみたい。
スマホを開いて、「記憶すること」と「するべき予定」を確認しないといけないらしいから見てみると、いろいろ書いてあった。たとえば、予定で言うと、「学校から帰ってきたらメモ、寝る前に日記」とか、「きょうはカラオケがある」とか。
記憶することは、わたしのクラスとか、友達のこととか。軽く覚えますか〜
覚えることはある程度覚えたから、学校にレッツゴー!
……ん?なんか明らかにわたしに向かって手を振ってくるひとがいる。
あれは……もしかして、朝確認した花梨ちゃん?
「ののちゃーん!おはよ〜!」
やっぱりそうっぽい。「ののちゃん」って呼んでるし。
「おはよ、花梨ちゃん!」
「いや〜、きのう家教えてもらうって言ってたのに、すっかり忘れてたから、交差点で待っちゃった……」
「え、そうなの?」
「そうそう、いっしょに登校するために、家を教えてもらって毎日行くって話をしてたんだよね〜」
「へ〜、そうだったんだ……」
きのうのわたしはそんなことを言ってたんだ……たしかにそっちのほうが登校のときとか楽しいし、安心する。
そんなことを考えていると、花梨ちゃんが、
「じゃあさ、連絡先交換しない?」
「あ、それいいね!しようしよう!」
「じゃ、学校に行ったら書こっか」
「うんっ!」
学校についたら、さっそく連絡先交換をする。そしてそれが終わって席に戻ると、かわいい男の子が来た。たぶんこれが凪くんなのだろう。
「きのう話したミステリーの本、持ってきたよ!」
そういえば、日記にそんなことが書いてあった。
「ありがと〜!読んでみるね!」
自席に戻って、本を開く。しばし読み耽っていると、いつの間にかホームルームが始まりそうだった。きょうは木曜日にして初めて授業らしい授業があるらしい。
というわけで、学校の勉強ではひたすらノートをとるって言われたけど、四時間目まで受けてみたところ、きょうはほとんどの教科でイントロダクションと軽い復習しかやらないから、ノート必要なかった……
二時間目の数学、小三の知識までしかないわたしには無理すぎる……なんですか、方程式とか関数とかって……
昼休みに入っても、わたしはずっと本を読んでた。このミステリー普通におもしろいんですけど……!さすがわたしでも知ってる作家なだけある。昼休み中には読みきってしまった。たまたまそこらへんにあった紙に感想書こ!
帰りのホームルームが始まるころには、感想はけっこう書き終わっていた。凪くんのところに本を返しに行こう。
「凪くーん!この小説ありがと!すごいおもしろかった!」
「おもしろかった?なら良かったな……」
わたしは、やっぱりこの子と仲良くしたい。もうどうしようもないほどに。
――わたしの心の奥底にある気がする、この気持ちには気づかないふりをして。
さて、なんとか五・六時間目も乗り切って、下校時刻。きょうは四人でカラオケに行く日だから、あらかじめメモした歌を覚えておいた。
「じゃあ、現地集合で!またあとで〜」
みんなが分かれる交差点に差し掛かったところで、花梨ちゃんがそう言った。
「またあとで〜!」
楽しみだなぁ……!
家から徒歩十五分くらいのところに、カラオケ店がある。このカラオケ店は、小学校のころからたまに行ってたけど、わりとひとが少ない。
店の前に着くと、すでに花梨ちゃんと葵ちゃんは着いていた。そして、間もなく奏音ちゃんがやってきて、四人で店に入る。
「いや〜、楽しみだね!」
「なんだかんだ私たちってカラオケ行ったことなかったからね」
「そういえば乃々花ちゃんって、最近の歌とか歌分かるの?」
「がんばって調べてきたよ!」
「お〜!用意周到!」
「じゃ、行こっか」
「レッツゴー!」
店員さんに案内されて部屋に入ると、真っ先に花梨ちゃんが曲を入れた。わたしも調べているときに見た、最近流行りの曲のようだった。このメンバーでの初カラオケなのに、なんの恥ずかしげもなく最初に歌えるのは、ちょっとだけ、すごい……って思ってしまう。
談笑を楽しみながら、気分になったら歌う。わたしたちはそうやってカラオケを楽しんだ。わたしも調べてきた曲を何曲か歌った。
「お〜、ののちゃん歌上手い!」
「そう、かな……?ありがと」
今までわたしは歌がそこまで上手くないほうだと思ってたから、素直に褒められてちょっと照れた……
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。気がつけば日は暮れかけていて、解散予定時刻になっていた。
「じゃあ、またあした、学校でね!ばいばーい!」
「ばいばい!」
挨拶って、なんかいつも花梨ちゃんからしてくれる。もはやこの四人のリーダーなのかもしれない。
「ただいま〜」
「おかえり。どうだった?」
「すんごい楽しかった!あと生まれて初めて歌を褒められたかも……」
「良かったじゃない!」
お母さんとそんな会話を交わしながらキッチンを見ると、夕飯がもう少しでできるらしい。
帰ってきたら、きょうあったことのメモをするってリマインダーに書いてあったけど、夕飯の後でいっか。
――というわけで、夕飯食べ切ったからメモ書こう!
〈四月十日〉
・花梨ちゃんと連絡先を交換した
・凪くんに本を借りた
・四人でカラオケに行った
出来事としてはこんなもんかな。けど、すごい充実してた気がする。
凪くんから借りた小説の感想も書き終わった!
じゃあ、せっかく連絡先教えてもらったし、ちょっと花梨ちゃんにメッセージ送ってみようかな……
「花梨ちゃん、お疲れさま!きょうは楽しかったね!」
二分も経たないうちに返信が来た。はっや。
「うん!また行きたいな〜」
そういえば結局家を教え忘れてたから、地図アプリで教えてあげた。これであしたの朝になったら花梨ちゃんが家に来るのかな……?
こうして話しているうちに、いつの間にか夜になっていた。
「じゃあ、そろそろ寝る支度するね!おやすみ〜」
「おやすみ!」
向こうからの返信が確認できたら、お風呂に入って寝る準備をする。
お風呂は寝る一〜二時間前に入るといいらしいけど、わたしはそんなの気にしてない。
さて、日記を書くわけだけど、リマインダーに「日記の無駄な硬さをなくす」って書いてあるから、敬語を使うのはやめて、柔らかい口調で書こう。
***
〈四月十日(木曜日)〉
きょうは、朝に花梨ちゃんと連絡先を交換した〜!そして夜にずっと話してて、すごい楽しかった。花梨ちゃん返信早すぎる……家も教えたから、これで毎朝家に来てくれると思う!
あと、凪くんから有名作家のミステリー小説を借りて、読んでたらすごいおもしろかった!時間を忘れて読んじゃったな……
で、学校帰りにみんなでカラオケ行った!花梨ちゃんに歌を褒められて照れちゃった……あと葵ちゃんがすんごい歌上手かった!
あしたは特に予定ないけど、いい日になるといいな〜
***
よし、ものすごく柔らかい文にできた自信がある!
ふぁぁ……疲れた……
「必読って書いてある……」
読んでみると、たぶんお母さんの字で、わたしの今の状況とか、前向性健忘っていう病気についてとか、この日記についてとか、いろいろ書いてあった。
ああ、「この家なんかすごい変わってる!?」って思ったのはそういうことか。
スマホは中学校の入学祝いに買ってもらったらしい。お母さんとは違う字で書いてあった。
「おはよ〜」
「おはよう。日記に貼ってあった紙、見た?」
「うん!なんかよくわかんないけど、見たよ」
どうやら今のわたしについては、あの紙にぜんぶ書いてあるみたい。
スマホを開いて、「記憶すること」と「するべき予定」を確認しないといけないらしいから見てみると、いろいろ書いてあった。たとえば、予定で言うと、「学校から帰ってきたらメモ、寝る前に日記」とか、「きょうはカラオケがある」とか。
記憶することは、わたしのクラスとか、友達のこととか。軽く覚えますか〜
覚えることはある程度覚えたから、学校にレッツゴー!
……ん?なんか明らかにわたしに向かって手を振ってくるひとがいる。
あれは……もしかして、朝確認した花梨ちゃん?
「ののちゃーん!おはよ〜!」
やっぱりそうっぽい。「ののちゃん」って呼んでるし。
「おはよ、花梨ちゃん!」
「いや〜、きのう家教えてもらうって言ってたのに、すっかり忘れてたから、交差点で待っちゃった……」
「え、そうなの?」
「そうそう、いっしょに登校するために、家を教えてもらって毎日行くって話をしてたんだよね〜」
「へ〜、そうだったんだ……」
きのうのわたしはそんなことを言ってたんだ……たしかにそっちのほうが登校のときとか楽しいし、安心する。
そんなことを考えていると、花梨ちゃんが、
「じゃあさ、連絡先交換しない?」
「あ、それいいね!しようしよう!」
「じゃ、学校に行ったら書こっか」
「うんっ!」
学校についたら、さっそく連絡先交換をする。そしてそれが終わって席に戻ると、かわいい男の子が来た。たぶんこれが凪くんなのだろう。
「きのう話したミステリーの本、持ってきたよ!」
そういえば、日記にそんなことが書いてあった。
「ありがと〜!読んでみるね!」
自席に戻って、本を開く。しばし読み耽っていると、いつの間にかホームルームが始まりそうだった。きょうは木曜日にして初めて授業らしい授業があるらしい。
というわけで、学校の勉強ではひたすらノートをとるって言われたけど、四時間目まで受けてみたところ、きょうはほとんどの教科でイントロダクションと軽い復習しかやらないから、ノート必要なかった……
二時間目の数学、小三の知識までしかないわたしには無理すぎる……なんですか、方程式とか関数とかって……
昼休みに入っても、わたしはずっと本を読んでた。このミステリー普通におもしろいんですけど……!さすがわたしでも知ってる作家なだけある。昼休み中には読みきってしまった。たまたまそこらへんにあった紙に感想書こ!
帰りのホームルームが始まるころには、感想はけっこう書き終わっていた。凪くんのところに本を返しに行こう。
「凪くーん!この小説ありがと!すごいおもしろかった!」
「おもしろかった?なら良かったな……」
わたしは、やっぱりこの子と仲良くしたい。もうどうしようもないほどに。
――わたしの心の奥底にある気がする、この気持ちには気づかないふりをして。
さて、なんとか五・六時間目も乗り切って、下校時刻。きょうは四人でカラオケに行く日だから、あらかじめメモした歌を覚えておいた。
「じゃあ、現地集合で!またあとで〜」
みんなが分かれる交差点に差し掛かったところで、花梨ちゃんがそう言った。
「またあとで〜!」
楽しみだなぁ……!
家から徒歩十五分くらいのところに、カラオケ店がある。このカラオケ店は、小学校のころからたまに行ってたけど、わりとひとが少ない。
店の前に着くと、すでに花梨ちゃんと葵ちゃんは着いていた。そして、間もなく奏音ちゃんがやってきて、四人で店に入る。
「いや〜、楽しみだね!」
「なんだかんだ私たちってカラオケ行ったことなかったからね」
「そういえば乃々花ちゃんって、最近の歌とか歌分かるの?」
「がんばって調べてきたよ!」
「お〜!用意周到!」
「じゃ、行こっか」
「レッツゴー!」
店員さんに案内されて部屋に入ると、真っ先に花梨ちゃんが曲を入れた。わたしも調べているときに見た、最近流行りの曲のようだった。このメンバーでの初カラオケなのに、なんの恥ずかしげもなく最初に歌えるのは、ちょっとだけ、すごい……って思ってしまう。
談笑を楽しみながら、気分になったら歌う。わたしたちはそうやってカラオケを楽しんだ。わたしも調べてきた曲を何曲か歌った。
「お〜、ののちゃん歌上手い!」
「そう、かな……?ありがと」
今までわたしは歌がそこまで上手くないほうだと思ってたから、素直に褒められてちょっと照れた……
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。気がつけば日は暮れかけていて、解散予定時刻になっていた。
「じゃあ、またあした、学校でね!ばいばーい!」
「ばいばい!」
挨拶って、なんかいつも花梨ちゃんからしてくれる。もはやこの四人のリーダーなのかもしれない。
「ただいま〜」
「おかえり。どうだった?」
「すんごい楽しかった!あと生まれて初めて歌を褒められたかも……」
「良かったじゃない!」
お母さんとそんな会話を交わしながらキッチンを見ると、夕飯がもう少しでできるらしい。
帰ってきたら、きょうあったことのメモをするってリマインダーに書いてあったけど、夕飯の後でいっか。
――というわけで、夕飯食べ切ったからメモ書こう!
〈四月十日〉
・花梨ちゃんと連絡先を交換した
・凪くんに本を借りた
・四人でカラオケに行った
出来事としてはこんなもんかな。けど、すごい充実してた気がする。
凪くんから借りた小説の感想も書き終わった!
じゃあ、せっかく連絡先教えてもらったし、ちょっと花梨ちゃんにメッセージ送ってみようかな……
「花梨ちゃん、お疲れさま!きょうは楽しかったね!」
二分も経たないうちに返信が来た。はっや。
「うん!また行きたいな〜」
そういえば結局家を教え忘れてたから、地図アプリで教えてあげた。これであしたの朝になったら花梨ちゃんが家に来るのかな……?
こうして話しているうちに、いつの間にか夜になっていた。
「じゃあ、そろそろ寝る支度するね!おやすみ〜」
「おやすみ!」
向こうからの返信が確認できたら、お風呂に入って寝る準備をする。
お風呂は寝る一〜二時間前に入るといいらしいけど、わたしはそんなの気にしてない。
さて、日記を書くわけだけど、リマインダーに「日記の無駄な硬さをなくす」って書いてあるから、敬語を使うのはやめて、柔らかい口調で書こう。
***
〈四月十日(木曜日)〉
きょうは、朝に花梨ちゃんと連絡先を交換した〜!そして夜にずっと話してて、すごい楽しかった。花梨ちゃん返信早すぎる……家も教えたから、これで毎朝家に来てくれると思う!
あと、凪くんから有名作家のミステリー小説を借りて、読んでたらすごいおもしろかった!時間を忘れて読んじゃったな……
で、学校帰りにみんなでカラオケ行った!花梨ちゃんに歌を褒められて照れちゃった……あと葵ちゃんがすんごい歌上手かった!
あしたは特に予定ないけど、いい日になるといいな〜
***
よし、ものすごく柔らかい文にできた自信がある!
ふぁぁ……疲れた……
