朝起きたら、枕元になんか置いてあった。
「なにこれ、日記帳?」
開いてみると、まだ二日しか書いていないみたい。まあお母さんに訊こう……
あと、この家なんかすごい変わってない?持ってないはずのスマホもあるし。
「おはよ〜。お母さん、なにこれ?」
「おはよう。ああ、それね。乃々花は、前向性健忘っていう病気だから、記録をとるようにしてるの」
そしてお母さんは、この病気についてと、病気だから記録を残さないといけなくて、おとといから日記をとることにしたことを教えてくれた。ちなみに、スマホは中学への進学祝いに買ってもらったらしい。
「へぇ……そういうことか……」
うーん、こんなあっさり受け入れられるの、我ながら怖い。
「じゃあさ、そのこと、紙に書いて日記帳に貼っといてくれない?」
「いいわよ」
おお、快諾してくれた。じゃあ、これであしたは戸惑う心配がないかな。
そういえば、机の上にメモ帳があったけど、あれ、なんだろ……?ちょっと開いてみよう。
〈四月七日〉
・中学三年生の始業式
・花梨ちゃんと奏音ちゃんと葵ちゃん(中一からの友達)と話した
・花梨ちゃんは元気な子で、奏音ちゃんはおっとりした子で、葵ちゃんは眼鏡をかけた真面目っぽい子
〈四月八日〉
・花梨ちゃんは、明るい性格で同じ二組。ほかの友達としゃべっていることも多い。肌はけっこう白くて、見た目はけっこうかわいい。短髪。わたしのことは「ののちゃん」呼び。
・奏音ちゃんは、一組で、おっとりした性格。ポニーテールにしててだいぶ長髪。体は少しふくよかな感じ。わたしのことは「乃々花ちゃん」呼び。
・葵ちゃんは、三組で、なんか真面目そう。セミロングの髪をおろしてて、青みがかった眼鏡をかけてる。けっこう身長が高くて痩せてる。わたしのことは「乃々花」呼び。
・凪くんと初めて話した。どうやら一・二年から同じクラスで、ずっと気になっていたらしい。思い切って声をかけに行ったら、顔も声もすごいかわいかった。あと恋愛小説読んでた。
なるほど、日記のメモか……じゃあ、学校から帰ってきたら書こ。
さて、学校に向かおう。日記には四月七日が下原中の始業式って書いてあったから、わたしが下原中に行けばいいことはお母さんに訊いて確認済み。友達のことも日記で確認済み。
で、学校に着いたけど……
「下駄箱って……どこ?わたし何組なの?」
そんなことは日記に書いてなかった。
探してみると、三年生の下駄箱は見つかった。おとといが三年生の始業式だったらしいから、今わたしは中三のはず。けど、クラスが分からない。見た感じ、三組までありそうだけど……
……あっ、同級生と思しき人が!ちょっと訊いてみよ。
「すみません。あなたって三年ですか?」
「はい、そうですけど……ってああ、北澤さんね。どうしたの?」
「わたしのクラスって何組?」
「えっと、確か北澤さんは二組のはず。番号までは知らないけど……」
「わかった。ありがと!」
向こうがわたしを認めたとたんに敬語を崩したから、わたし、けっこういろんなひとと仲良くしてたのかも。
どうやら二組らしい。上履きに名前くらい書いてあるはず……
「あ、あった!」
よし、教室へ行こう。席分かるかな……
教室に入ろうとすると、わたしの席は出入口の目の前にあって、ちゃんと名前が書いてあった。だから今までもたぶん席には困ってなかったんだろうな。
「あ、ののちゃん!おはよ〜!」
教室に入ったら声をかけられた。特徴からして、おそらく日記に書いてあった「花梨ちゃん」だろう。
「おはよ〜!花梨ちゃん?」
「うん!」
「ねえねえ聞いてよ……きょう自分の上履きが分からなくてずっと探し回ってたんだよ……」
「ああ、今までは下駄箱つく前に会ってたからね……」
「なるほど……」
「じゃあさ、家の場所教えてくれたら毎日迎えに行くよ!」
「え、いいの?ありがと〜!けど、遠くない……?」
「大丈夫!遠いといっても同じ学区内なんだし」
うわぁ……やさしい……これであしたからもなんとかなる。たぶん。
あ、あと……
「ねえ、わたしって今まで勉強どうしてたの?」
「えっとね、とりあえずノートとって、テストとかの大事な日に見返してたよ!」
「え、それで覚えられるの……?」
「それがね、ののちゃん頭よすぎて一瞬で覚えられちゃってるの。いつも八十点くらいとれてる」
「え、わたしすごい……」
なにそれ、天才じゃん。わたし、そんなことしてたの?
「っていうかさ、なんでこんなに漢字もわかって語彙力もあるの?事故に遭ったの小三でしょ?」
「えっと、昔から言葉とかが好きで……」
「へえ〜!それで漢字も?」
「うん」
「すごいなぁ……」
わたしは小学生のころから言葉とか漢字が好きで、いろんな言葉を調べてたし、漢字は中学生くらいのものなら書けるのもあった。
そんな話をして、お互いに自分の席に戻った。
どうやらきょうもまだ授業っぽいことはしないらしい。
一・二時間目が終わって、三時間目。内容は、「三年生になって」というテーマで作文を書くというものだった。
「三年生になって、か……」
難しい。わたしにとっては学年とか関係ない。みんなは毎日が線でつながっていて、そこに変化があるのかもしれないけど、わたしは毎日が点で、つながることはない。
ただ、あえて書くとするなら……
「やっぱり凪くんのことかな……」
三年生になっていちばんの変化と言ったら、それかもしれない。個人名を出すのはまずい気がしたから、「新しい友達」にしよう。
あとは、三年生での抱負的なものを適当にまとめて終わりかな……
そうして三時間目が終わった。すると花梨ちゃんが席に来て、
「ねえねえ、作文ってなに書いた?」
「わたしは三年生になっての抱負と、凪くんのこと」
「いいねぇ。わたしは、勉強のことと、ののちゃんたちともっと仲良くしたいってこと!」
「え、わたしの名前書いたの?」
「さすがに友達って書いたよ〜」
びっくりした。さすがに作文に個人名を出されるのはね……
そんなこんなで四時間目も終わらせて、給食を食べる。そして昼休みに入ったとたん、体は勝手に凪くんのほうに向かっていた。
「ねえねえ、きょうはなに読んでるの?」
「えっと、きのうの本は家で読み切ったから、有名な作家さんのミステリー小説を……」
「あ、そのひと、わたしも知ってる!おもしろいよね〜」
そのひとは長い間活動してるから、わたしも小学生のころに読んだ記憶がある。おかげで漢字と語彙の知識がすごい増えたっけ。
「読んだことあるの?」
「違う本だけどね。その本は読んだことない」
「じゃあ、あした貸してあげよっか?」
「え、いいの?ありがと!」
こうして、凪くんから本を借りることになった。翌日になったら忘れちゃうけど、一日で読みきって感想を書けばいい。
午後の時間割りも無事終わらせて、四人で帰っているとき、花梨ちゃんが、
「ねえ、この後カラオケでもいかない?」
「あ、この後私は予定が……」
どうやら葵ちゃんは用事があるらしい。
「え、じゃああしたは?」
「あしたはなにもないよ」
「じゃあ、あした予定あるひと〜!」
誰からも手は挙がらなかった。わたしも今朝確認したカレンダーになにも書いてなかったことを覚えている。
「じゃああした行こう!」
「うん!」
「あ、ののちゃんはちゃんと日記に書いといてね〜?」
「はーい」
……わたし、最近の曲とかなにも知らないけど大丈夫かな。
さてと、帰ってきたらメモだよ、メモ。
〈四月九日〉
・きょうは花梨ちゃんと勉強のことについて話したりした
・凪くんに本を貸してもらえることになった
・下校中、カラオケに行く約束をした
まあこんなもんでしょう!
そしてわたしは閃いた。「記憶すべきこと」と「やるべき予定」はべつのにまとめたほうがいいかもしれない。
今からまた文具屋さんに行くのはめんどくさいし……スマホでいっか!記憶すべきことは文章作成ツールで管理して、やるべき予定はリマインダーで確認!
さて、まず記憶すべきことは……
・わたしは下原中学校の三年二組十一番。席は教室後方のドアの目の前で、名前が書いてある。
とりあえずいいかな……?
あ、あと友達の特徴も書いておこう。きのうの日記をカメラでスキャンして、ちょっと編集。
・花梨ちゃんは、明るい性格で同じ二組。ほかの友達としゃべっていることも多い。肌はけっこう白くて、見た目はけっこうかわいい。短髪。わたしのことは「ののちゃん」呼び。
・奏音ちゃんは、一組で、おっとりした性格。ポニーテールにしててだいぶ長髪。体は少しふくよかな感じ。わたしのことは「乃々花ちゃん」呼び。
・葵ちゃんは、三組で、なんか真面目そう。セミロングの髪をおろしてて、青みがかった眼鏡をかけてる。けっこう身長が高くて痩せてる。わたしのことは「乃々花」呼び。
・凪くんは、顔も声もすごいかわいい。いつも本読んでて、他人といっしょにいるとこはほぼ見たことがない。どうやら一・二年から同じクラスで、ずっと気になっていたらしい。
あとは、
・学校の勉強はとりあえずノートをとって、テストとかの大事な日に見返す
おっけー、終わり!
次に、やるべき予定。リマインダーアプリを開いて……
・学校帰りには出来事のメモ、夜寝る前に日記を書く
これは繰り返しをオンにして、毎日にしよう。
それと……
・四人でカラオケに行く
これを四月十日の予定として設定。さっき念のためお母さんに訊いたら、なんにもないらしいから、行ける。
予定はこれだけかな?
……あ、ちょっと待って、花梨ちゃんに家を教えるの忘れてた。
え、やばい、どうしよ、あした。
もし向こうが覚えてたら……無理に家を探しにとか、来られないよね……?
あしたカラオケに行くときに、歌う曲を調べないと。お気に入りの曲をスマホのメモ帳に書いておこう。じゃあリマインダーにいっこ追加しないとね。
・メモ帳に書いた曲を確認する
ふぅ……じゃあ調べよっか。
――いろいろしてたらいつの間にか夜になってた。
さて、日記を書こう。
ちゃんとお母さんが、朝の説明をぜんぶ書いてくれてる。おまけに、表紙に「必読!」って書いてある……
***
〈四月九日(水曜日)〉
きょうは、花梨ちゃんに「わたしがどうやって勉強していたか」を訊きました。わたしが思ったよりとんでもないことをしててびっくりです。
あした凪くんがミステリー小説を貸してくれることになりました。ものすごく楽しみです。
さらに、あした四人でカラオケに行けることになりました。がんばって曲を調べたので、あしたまた確認して、がんばって歌おうと思います。
***
ずっと思ってたけど、わたしの日記硬くない?リマインダーに「日記の無駄な硬さをなくす」って書いとこ。あと、お母さんがいろいろ書いてくれた場所に、「記憶すべきことと予定を見るように」とかいろいろ、追記しとこ。
……あしたけっこう充実しそうだな。
「なにこれ、日記帳?」
開いてみると、まだ二日しか書いていないみたい。まあお母さんに訊こう……
あと、この家なんかすごい変わってない?持ってないはずのスマホもあるし。
「おはよ〜。お母さん、なにこれ?」
「おはよう。ああ、それね。乃々花は、前向性健忘っていう病気だから、記録をとるようにしてるの」
そしてお母さんは、この病気についてと、病気だから記録を残さないといけなくて、おとといから日記をとることにしたことを教えてくれた。ちなみに、スマホは中学への進学祝いに買ってもらったらしい。
「へぇ……そういうことか……」
うーん、こんなあっさり受け入れられるの、我ながら怖い。
「じゃあさ、そのこと、紙に書いて日記帳に貼っといてくれない?」
「いいわよ」
おお、快諾してくれた。じゃあ、これであしたは戸惑う心配がないかな。
そういえば、机の上にメモ帳があったけど、あれ、なんだろ……?ちょっと開いてみよう。
〈四月七日〉
・中学三年生の始業式
・花梨ちゃんと奏音ちゃんと葵ちゃん(中一からの友達)と話した
・花梨ちゃんは元気な子で、奏音ちゃんはおっとりした子で、葵ちゃんは眼鏡をかけた真面目っぽい子
〈四月八日〉
・花梨ちゃんは、明るい性格で同じ二組。ほかの友達としゃべっていることも多い。肌はけっこう白くて、見た目はけっこうかわいい。短髪。わたしのことは「ののちゃん」呼び。
・奏音ちゃんは、一組で、おっとりした性格。ポニーテールにしててだいぶ長髪。体は少しふくよかな感じ。わたしのことは「乃々花ちゃん」呼び。
・葵ちゃんは、三組で、なんか真面目そう。セミロングの髪をおろしてて、青みがかった眼鏡をかけてる。けっこう身長が高くて痩せてる。わたしのことは「乃々花」呼び。
・凪くんと初めて話した。どうやら一・二年から同じクラスで、ずっと気になっていたらしい。思い切って声をかけに行ったら、顔も声もすごいかわいかった。あと恋愛小説読んでた。
なるほど、日記のメモか……じゃあ、学校から帰ってきたら書こ。
さて、学校に向かおう。日記には四月七日が下原中の始業式って書いてあったから、わたしが下原中に行けばいいことはお母さんに訊いて確認済み。友達のことも日記で確認済み。
で、学校に着いたけど……
「下駄箱って……どこ?わたし何組なの?」
そんなことは日記に書いてなかった。
探してみると、三年生の下駄箱は見つかった。おとといが三年生の始業式だったらしいから、今わたしは中三のはず。けど、クラスが分からない。見た感じ、三組までありそうだけど……
……あっ、同級生と思しき人が!ちょっと訊いてみよ。
「すみません。あなたって三年ですか?」
「はい、そうですけど……ってああ、北澤さんね。どうしたの?」
「わたしのクラスって何組?」
「えっと、確か北澤さんは二組のはず。番号までは知らないけど……」
「わかった。ありがと!」
向こうがわたしを認めたとたんに敬語を崩したから、わたし、けっこういろんなひとと仲良くしてたのかも。
どうやら二組らしい。上履きに名前くらい書いてあるはず……
「あ、あった!」
よし、教室へ行こう。席分かるかな……
教室に入ろうとすると、わたしの席は出入口の目の前にあって、ちゃんと名前が書いてあった。だから今までもたぶん席には困ってなかったんだろうな。
「あ、ののちゃん!おはよ〜!」
教室に入ったら声をかけられた。特徴からして、おそらく日記に書いてあった「花梨ちゃん」だろう。
「おはよ〜!花梨ちゃん?」
「うん!」
「ねえねえ聞いてよ……きょう自分の上履きが分からなくてずっと探し回ってたんだよ……」
「ああ、今までは下駄箱つく前に会ってたからね……」
「なるほど……」
「じゃあさ、家の場所教えてくれたら毎日迎えに行くよ!」
「え、いいの?ありがと〜!けど、遠くない……?」
「大丈夫!遠いといっても同じ学区内なんだし」
うわぁ……やさしい……これであしたからもなんとかなる。たぶん。
あ、あと……
「ねえ、わたしって今まで勉強どうしてたの?」
「えっとね、とりあえずノートとって、テストとかの大事な日に見返してたよ!」
「え、それで覚えられるの……?」
「それがね、ののちゃん頭よすぎて一瞬で覚えられちゃってるの。いつも八十点くらいとれてる」
「え、わたしすごい……」
なにそれ、天才じゃん。わたし、そんなことしてたの?
「っていうかさ、なんでこんなに漢字もわかって語彙力もあるの?事故に遭ったの小三でしょ?」
「えっと、昔から言葉とかが好きで……」
「へえ〜!それで漢字も?」
「うん」
「すごいなぁ……」
わたしは小学生のころから言葉とか漢字が好きで、いろんな言葉を調べてたし、漢字は中学生くらいのものなら書けるのもあった。
そんな話をして、お互いに自分の席に戻った。
どうやらきょうもまだ授業っぽいことはしないらしい。
一・二時間目が終わって、三時間目。内容は、「三年生になって」というテーマで作文を書くというものだった。
「三年生になって、か……」
難しい。わたしにとっては学年とか関係ない。みんなは毎日が線でつながっていて、そこに変化があるのかもしれないけど、わたしは毎日が点で、つながることはない。
ただ、あえて書くとするなら……
「やっぱり凪くんのことかな……」
三年生になっていちばんの変化と言ったら、それかもしれない。個人名を出すのはまずい気がしたから、「新しい友達」にしよう。
あとは、三年生での抱負的なものを適当にまとめて終わりかな……
そうして三時間目が終わった。すると花梨ちゃんが席に来て、
「ねえねえ、作文ってなに書いた?」
「わたしは三年生になっての抱負と、凪くんのこと」
「いいねぇ。わたしは、勉強のことと、ののちゃんたちともっと仲良くしたいってこと!」
「え、わたしの名前書いたの?」
「さすがに友達って書いたよ〜」
びっくりした。さすがに作文に個人名を出されるのはね……
そんなこんなで四時間目も終わらせて、給食を食べる。そして昼休みに入ったとたん、体は勝手に凪くんのほうに向かっていた。
「ねえねえ、きょうはなに読んでるの?」
「えっと、きのうの本は家で読み切ったから、有名な作家さんのミステリー小説を……」
「あ、そのひと、わたしも知ってる!おもしろいよね〜」
そのひとは長い間活動してるから、わたしも小学生のころに読んだ記憶がある。おかげで漢字と語彙の知識がすごい増えたっけ。
「読んだことあるの?」
「違う本だけどね。その本は読んだことない」
「じゃあ、あした貸してあげよっか?」
「え、いいの?ありがと!」
こうして、凪くんから本を借りることになった。翌日になったら忘れちゃうけど、一日で読みきって感想を書けばいい。
午後の時間割りも無事終わらせて、四人で帰っているとき、花梨ちゃんが、
「ねえ、この後カラオケでもいかない?」
「あ、この後私は予定が……」
どうやら葵ちゃんは用事があるらしい。
「え、じゃああしたは?」
「あしたはなにもないよ」
「じゃあ、あした予定あるひと〜!」
誰からも手は挙がらなかった。わたしも今朝確認したカレンダーになにも書いてなかったことを覚えている。
「じゃああした行こう!」
「うん!」
「あ、ののちゃんはちゃんと日記に書いといてね〜?」
「はーい」
……わたし、最近の曲とかなにも知らないけど大丈夫かな。
さてと、帰ってきたらメモだよ、メモ。
〈四月九日〉
・きょうは花梨ちゃんと勉強のことについて話したりした
・凪くんに本を貸してもらえることになった
・下校中、カラオケに行く約束をした
まあこんなもんでしょう!
そしてわたしは閃いた。「記憶すべきこと」と「やるべき予定」はべつのにまとめたほうがいいかもしれない。
今からまた文具屋さんに行くのはめんどくさいし……スマホでいっか!記憶すべきことは文章作成ツールで管理して、やるべき予定はリマインダーで確認!
さて、まず記憶すべきことは……
・わたしは下原中学校の三年二組十一番。席は教室後方のドアの目の前で、名前が書いてある。
とりあえずいいかな……?
あ、あと友達の特徴も書いておこう。きのうの日記をカメラでスキャンして、ちょっと編集。
・花梨ちゃんは、明るい性格で同じ二組。ほかの友達としゃべっていることも多い。肌はけっこう白くて、見た目はけっこうかわいい。短髪。わたしのことは「ののちゃん」呼び。
・奏音ちゃんは、一組で、おっとりした性格。ポニーテールにしててだいぶ長髪。体は少しふくよかな感じ。わたしのことは「乃々花ちゃん」呼び。
・葵ちゃんは、三組で、なんか真面目そう。セミロングの髪をおろしてて、青みがかった眼鏡をかけてる。けっこう身長が高くて痩せてる。わたしのことは「乃々花」呼び。
・凪くんは、顔も声もすごいかわいい。いつも本読んでて、他人といっしょにいるとこはほぼ見たことがない。どうやら一・二年から同じクラスで、ずっと気になっていたらしい。
あとは、
・学校の勉強はとりあえずノートをとって、テストとかの大事な日に見返す
おっけー、終わり!
次に、やるべき予定。リマインダーアプリを開いて……
・学校帰りには出来事のメモ、夜寝る前に日記を書く
これは繰り返しをオンにして、毎日にしよう。
それと……
・四人でカラオケに行く
これを四月十日の予定として設定。さっき念のためお母さんに訊いたら、なんにもないらしいから、行ける。
予定はこれだけかな?
……あ、ちょっと待って、花梨ちゃんに家を教えるの忘れてた。
え、やばい、どうしよ、あした。
もし向こうが覚えてたら……無理に家を探しにとか、来られないよね……?
あしたカラオケに行くときに、歌う曲を調べないと。お気に入りの曲をスマホのメモ帳に書いておこう。じゃあリマインダーにいっこ追加しないとね。
・メモ帳に書いた曲を確認する
ふぅ……じゃあ調べよっか。
――いろいろしてたらいつの間にか夜になってた。
さて、日記を書こう。
ちゃんとお母さんが、朝の説明をぜんぶ書いてくれてる。おまけに、表紙に「必読!」って書いてある……
***
〈四月九日(水曜日)〉
きょうは、花梨ちゃんに「わたしがどうやって勉強していたか」を訊きました。わたしが思ったよりとんでもないことをしててびっくりです。
あした凪くんがミステリー小説を貸してくれることになりました。ものすごく楽しみです。
さらに、あした四人でカラオケに行けることになりました。がんばって曲を調べたので、あしたまた確認して、がんばって歌おうと思います。
***
ずっと思ってたけど、わたしの日記硬くない?リマインダーに「日記の無駄な硬さをなくす」って書いとこ。あと、お母さんがいろいろ書いてくれた場所に、「記憶すべきことと予定を見るように」とかいろいろ、追記しとこ。
……あしたけっこう充実しそうだな。
