「ふわぁ……ねむい……」
 目覚ましは六時にセットしていたけど、楽しみすぎたからか一時間早く起きてしまった。けど、二度寝したらたぶん六時に起きれない。うーん……

 結局起きて、ニュース番組を流す。
 きょうは一日中晴れ、お出かけにはちょうどいい日。きのう、服を買う前に見た予報が変わってなくて安心した。せっかく時間があるし、家に大量にある動物の本で予習をしておこう。
「おはよ〜」
「あ、お母さん、おはよ!」
「きょうお出かけだよね?準備した?」
「あとは服とか見た目だけ!」
 じゃあ、そろそろ準備しよう。公園までは二十分くらいあるし。
 ――準備完了。
「いってきまーす!」
「いってらっしゃーい!」

 いつもより足取りが軽い。余裕をもって出すぎたせいか、公園に着いたのはまだ八時半くらいだった。
 経路の確認とかをして時間をつぶすこと約二十分、ひとの気配がして顔を上げると、ひとりの女の子がこっちに向かって歩いてきた。
「あ、乃々花!こっちこっち!」
 そうして乃々花が来て、ちょっと雑談を交わしてたら、いつの間にか九時。やっぱさすがに八時半は早すぎたらしい。乃々花もルートを調べてきたらしいから、調べといた経路が合ってることは確認できた。

 下原駅の二番線に向かう。着いたときに、乃々花が好きな動物を訊いてきた。僕はアルパカが好きだけど、乃々花はリスが好きらしい。たしか、鍵ヶ原にはリスもアルパカもいたから、いっぱい楽しめそう……!
 電車がやってきたら、川江まで行く。着いたら、五分くらい歩く。そして道中のコンビニで昼ごはんを買う。僕は梅干しおにぎりで、乃々花はたらこおにぎり。
 そしたらまた歩き出す。もう少し……!

 動物園についたら、まずは小鳥のゾーンがある。
 乃々花の目にまず留まったのは、アオジだった。そしてトラツグミ。トラツグミはたしか、夜に鳥とは思えないような鳴き声を出すんだよね……
 さてと、小鳥をひととおり見て……
「次どこ行く?」
「小動物ゾーン行こうよ!」
 というわけで、乃々花の提案で小動物ゾーンに来た。
 乃々花はリスが好きらしいから、ちょうどいい。
「あ、リス!いた!」
 乃々花がそう叫ぶ。そうして、リスの活発度合いで変なあだ名をつけていった。我ながら意味のわからないことをしてる。なんだろ、激走リスだの爆走リスだの。
 リス以外の小動物も見て、次は爬虫類ゾーン。僕は爬虫類だとカエルが好き。
「カエルってさ、目がクリクリしててかわいくない?」
「わかる!かわいいよね〜」
 全面的に肯定されて、なんかうれしい。
 いろいろ見てたら、一瞬でお昼に。
「いや〜、すごい楽しい!凪くんはどう?」
「僕も、楽しい……!」
「来て良かったね!」
 ――うん、ほんとに。

 さてと、午後は……
「じゃあ、午後は大きめの動物を見に行こっか!凪くんの好きなアルパカはどこかな〜?」
 僕が考えている間に乃々花が口を開いた。最近動物園に来てなかったから一瞬忘れかけたけど、すぐ思い出して、
「えっと……あ、あっちじゃない?行こう、乃々花!」
「うん!」
 けど、移動途中にもたくさんの動物がいる。
「お〜、フラミンゴだ!」
「フラミンゴが片足で立つのは、水が冷たいかららしいよ〜」
「あ、あそこにヤギがいるよ!」
「最近の紙はインクとかが使われてるから、ヤギに食べさせるのは良くないんだってね」
「あっちにはニホンザルが!」
「ニホンザルは、お尻とか顔の赤さで強さをアピールしてるんだよ」
 持ってる限りの知識を使って応戦。豆知識のアウトプットが意外とできることに自分でも驚いている。
「あ、凪くん!アルパカいたよ!」
「ほんとだ〜!やっぱかわいい……!」
 やっぱいちばん好きなアルパカだと、語りたくなっちゃう。
「ねえねえ、知ってる?アルパカの赤ちゃんって……」
 その後しばらく語ってたら、ふと我に返って、
「あ、ごめん!こんな豆知識延々と聞かされてもしょうがないよね……」
「いや、おもしろいからぜんぜん大丈夫!」
 しばらく見てたけど……あ、そろそろ閉園か……
 出口に向かおうとしたとき、乃々花がふと、
「ねえねえ、あのグッズ、おそろいで買わない?」
 お〜、「おそろい」って響き、好きすぎる……!しかもアルパカ!
「いいね、買おうよ!」

「いや〜、楽しかったね、凪くん!」
「うん!また来ようよ!」
「だね〜、また来たい!」
 そこから少し間をおいて、ふと、乃々花の足が止まった。そして、
「ねえ、凪くん」
「ん?なに?」
「ちょっと、こっちの道に来てくれない?」
 ……ん?え、なに?こんな細い道になんの用なんだろ……?
「えっと……どうしたの……?」
 乃々花は一回深呼吸をして、そして、

「わたし、凪くんのことが好きです」

「……え?」
 乃々花からの突然の告白。それは、どこまでもまっすぐで、芯のある声だった。
 どういうこと?僕のことが好き?乃々花が?
「え、えっと……」
 僕は、しばらくその場から動けなくなった。
 けど、少し経って、僕も、
「ぼ、僕も、乃々花のこと、好き、です……」
 きっと、乃々花とは違って、すごいぎこちない声になっちゃったと思う。
 けど、伝えられた。
「……そっか。良かった」
 乃々花は、そう言って僕のことを抱きしめてくれた。
 びっくりした。けど、うれしかった。僕は勝手に体が動いて、乃々花を抱きしめ返していた。

「ばいばい凪くん!またあしたね!」
「ばいばーい!」
 乃々花と別れて、家に向かう。
 急に現実に引き戻された気がした。
 
 ――あした会ったら、また夢の世界に行けるのかな。