「……柚羽様の舞が、何かを……呼んだのでは……」
廊下の向こうで交わされる、ひそひそ声が耳に残る。
名前が出た瞬間、それは刃のように柚羽の胸を刺した。
巫女の力に不調の兆しが出始めたのは、沙耶が亡くなった翌日からだった。
祀られた花の神々とのつながりが弱まり、祭壇に飾られた季節の花が一夜にして枯れてしまう。
雨の巡りが乱れ川が氾濫したと、他の社から報せが届くようになる。
「やっぱり……柚羽様は死の巫女よ。今度は季節を殺すのだわ」
「柚羽様は花の巫女なんかじゃない」
そう囁く声は日ごとに増えた。
舞いの最中に人が死ぬなど、不吉の極みと言うほかない。
言葉にせずとも、使用人たちの視線は柚羽が全ての元凶だと訴えていた。
*
屋敷の奥座敷で、柚羽は父と向き合っていた。
「私、ちゃんと舞えたはずです。祝詞も……間違っていなかったと思います」
柚羽は自分の声が震えていることに気づいた。
「落ち着きなさい。柚羽。誰も、お前を責めているわけではない」
父はそう言うがその声音には温もりがない。
穏やかな口調の奥にあるのは、娘を思う気持ちではなく、あくまで家の体面を守ろうとする者の冷静さと計算だった。
「ただ、儀式の場で不幸が起きた。それは事実だ。……継杜家からの任命も、正式な決定は下りていない。今は静かにしておくのが最善だ」
「でも……」
「沙耶が亡くなったのは不幸だった。だが、いつまでも引きずっていても仕方がない。お前の不調は、余計な悩みを抱えていることが原因だ」
「お父様……そんな……」
「お前は疲れているんだよ柚羽。暫くは身体を休めなさい。いいな?」
口調は変わらなかった。けれどその一言で、柚羽が今後儀式の場から外されるのだということが、はっきりと分かった。


