会議の後。
 一部の巫女たちは声をひそめながら、廊下の陰で小さく囁きあっていた。

「……紫乃様が雅弥様と話してたこと……あれ、冗談じゃなかったんだ」
「紫乃様、本当に……お姉様を、売るような……」

 紫乃が廊下の向こうから現れた瞬間、その声は途切れた。
 巫女たちは慌てて頭を下げるが、紫乃は何も言わず静かに通り過ぎる。

 しかしその目は、すれ違う者すべてを値踏みしていた。

 そして数日後。会議で異を唱えた年配の親族が、突然体調不良により療養と発表され姿を見せなくなった。
 同時に紫乃に疑問を持っていた巫女達も、素行不良だと叱責を受け巫女の職を剥奪されるに到った。

***

 夜。

 紫乃は一人、香を焚いた部屋で寛いでいた。
 香炉からは薄紫色の煙が立ち上り、ほのかに甘い香りを漂わせている。

「……煩い人達」

 離れの座敷からは、雅弥とその取り巻き達が笑う声が聞こえる。毎夜のどんちゃん騒は耳障りだが、どうせ使い捨ての駒達だからと紫乃は好きにさせていた。

「柚羽お姉様。あなたにふさわしい場所、みつけてあげたわ」

 そして、もう一度、香の煙を吸い込みながら、呟いた。

「花の巫女は私が継ぐわ。……だから安心して、最後は役に立ってね」