「……そー、だったんだ」
「そー。まぁ信じろとは言わないけど……」
「信じる」
「え?」
「信じるよ」
「……なんで」
「なんでって言われても、信じたいからしかないけど」
「そっ、か」
そう言って、霖は少しだけ目元を緩めた。その顔を見て、なんだか私の心まで少し軽くなった気がした。
ポケットの中で、スマホが短く震える。画面を見ると、さっき送ったメッセージへの返信が届いていた。
「お母さんが迎えに来てくれるっぽい」
スマホの画面から顔を上げて、霖に言う。
「へ?」
「さっきラインしたら、なんで夜中に海行ってるのとは驚かれたけど、笑いながらあと一時間くらいで仕事終わるから車で迎えに行ってあげるってさ」
「……そっか」
霖は、少しだけ眩しそうな目で私のスマホを見て、それから静かに笑った。
彼の家にはない、私の家にある当たり前の温かさが、今の霖を傷つけずに優しく包み込んでくれたならいいな、と思う。
「お母さんが来るまで、まだもうちょっと時間あるし。……ほら、火つけて」
「……了解」
冬にしては、季節外れな花火。それがいい。
折りたたみ式のバケツに水を汲んで、準備完了。
マッチの火が、霖の持つ線香花火の先に移る。
じ、じ、と小さな音を立てて、オレンジ色のまあるい火の玉が膨らんでいった。
パチパチと繊細な火花が散り、足元の暗い海辺をぼんやりと照らし出す。
その光に反応したのか、寄せては返すさざ波の向こう、真っ暗な水の中に、ぽつ、ぽつ、と淡い青緑色の光が浮かび上がった。
「……あ、くらげ」
霖が小さく呟く。
街灯の加減と、私たちが灯した花火の光に誘われるように、波間でくらげたちが優しく息をするように光っていた。
かつて観光地として大騒ぎされたブームの面影なんてどこにもない。
冬の冷たい雨上がりの海に、ただ静かに、誰に見せるでもなく揺れている。
それは、世界から切り離されたこの夜の、私たちそのもののようで。
誰でもよかった。自分を保つために、他の女の子に縋り付いてしまった。
そんなの、私の知っている優しい霖じゃない。言い訳だし、ただのずるい自己保身だ。
でも、ボロボロになって雨の中に立っていた君の、そのずるさも弱さも、全部知ってしまったから。
それもひっくるめて、愛してあげたいと思えた。
この小さな水槽の中で、私たちはやっと息ができている。
霖の横顔が、火花の色に染まる。
お母さんの車が来るまでの、あと少しの時間。
言葉はもう、いらなかった。
ただ二人の線香花火の光が海辺に光っていた。



