「どこ行くの」
「まぁ、ついたらわかるよ。取り敢えず、そこのコンビニで夜ご飯を買います」
「え、あ。はい」
急に敬語になって、お互いの顔を見合わせて少し笑ってしまう。ここだけ切り取ると、元カレ元カノ同士には思えないだろう。
私はたまごサンドとカツサンドと、いちごミルクのパックジュース。
霖は梅と塩のおにぎりと、お茶。
ここは払うから、と先に外のバス停のベンチに座るように促す。霖がベンチに座ったのを見て、会計を済ませる。
なんとなくで持ってきたトートバッグが役に立った。
お待たせ、と霖の隣に座りバスの時刻表を確認する。
「さて、これからどうするかといいますと……バスに乗って遠出しちゃいましょうってプランです」
バスの時刻表に目を滑らせて「なるほど、ここから遠出って事は……星波浜か」と理解してくれた。
「ふふ、正解」
「渚らしいね」
私らしい、か。
まぁ、きっとそう言われるとは思っていた。
星波浜は街灯の加減で光るクラゲのおかげで、一時観光地として有名になった。夜の暗い海を夜空に、光るクラゲを星に見立てて名付けられたそうだ。
今ではブームはもう過ぎて長期休暇にしか訪れられなくなった場所。
この夜を過ごすのに、一番ふさわしい場所だと思った。
案の定、バスの中には私達以外に乗客はいなかった。バスに乗って三十分程、無言でお互いに外を見ていた。
沈黙を破ったのは「ほっといてよかったのに」という霖の言葉。
なんとなく、わかったような気がした。そうやって自分から突き放す事で、離れられる時にダメージを最小限にする。
私の処世術と一緒。
「私が、あの状態で放っておけるような人間に見える?」
「見えない」
そう言うと、私の肩にぐっと顔を押し付けた。窓の外は真っ暗で、窓側の私の体温は下がっているのに肩だけはじんわり熱かった。
『次は、星波浜〜。星波浜。お降りのお客様はお忘れ物なさいませんようお支度をしてお待ちください』
プシューッという音で、バスが停車したのを確認して立ち上がる。
ICカードをカードリーダーに伸ばして「大人二人で。」と言う。
「はい、大人二人ね。」
「「ありがとうございました」」
バスを降りた時には、もう雨は止んでいた。
砂浜に足を踏み出す。星波浜に来たのは二度目だからか、少し懐かしさを感じた。
前は小学校の頃、親子三人で、ここで手持ち花火をした。クラスで上手くいかずに落ち込んでいた時に、連れ出してくれた。
そう、今度は私の番だ。
頼まれてないし、自分のエゴでも。押し付けなければきっと大丈夫。
◇
砂浜に、流木にしては綺麗な木があった。ぱっぱと砂を払い、そこに座る。
トートバッグから、おにぎりとお茶を取り出して霖に渡す。
「ありがと」
街灯にぼんやり照らされた横顔を見つめる。
あぁ、まだ好きだなぁ。
でも所詮、捨てた側から元の関係に戻ろうとは絶対に言わない。言えない。
サンドイッチを食べおえて、いちごミルクを片手にぐっと伸びをした。
「ねぇ。何があったの、とか。聞かないの」
霖は居心地悪そうに問う。
「聞いてほしいの?」
「いや、あんまり」
「なら聞かないよ。話したいことだけ話せばいいし、無ければそれでいい」
言いたくない事を無理やり聞き出させられても、しんどいだけだ。
それは本末転倒が過ぎる。
「優しすぎるでしょ……そんなの、ずるい」
「そうだよ、私はずるいの」
ふっと笑って誤魔化す。
「……なんで、振ったのにこんなに優しくすんの」
好きだからだよ、とか口走りそうになってしまった。
好きという感情だけでは、うまくいかない。
何かが必ず邪魔してくる。
「……抱きついたのは、なんで」
私はずるい。
ずるいから、質問に質問で返す。
「それが、振った理由?」
「そう、ごめんね。心広くないから、何も見なかったことには出来なくて」
「ほんとにそれはごめん。言い訳にしか聞こえないかもしれないけど、弁解させて」
あの日、霖は登校前にお母さんから壮絶なヒステリックを起こされて精神的に崩壊していた。
脳が働かなくて、立っているのもやっとで、保健室に逃げ込んだ。そこで偶然、同じクラスの女の子と遭遇した。
霖はもう、誰でもよかった。
誰でもいいから、人の温もりに触れてないと、自分が壊れて消えてしまいそうだった
だから、限界状態で思わずその子に縋り付いてしまった。
そう、霖は語った。



