「うーん……」
俺は悩んでいた。小澤曰く「いい顔」をしているらしい。けれども、「いい顔」をしているとは言え、詰まっているのには変わりはなかった。そうこうしているうちに、締め切りが週末、に迫って来ている。
先輩の隣、パソコンを開く。できかけの文章が一文字も進まずにらめっこ。USBを使って家に持ち帰ったり、もしたけれど、もちろん進まなかった。
「大丈夫?」
先輩が俺の方を覗き込んでいた。
「……なんか、詰まってしまっていて……。その、プロットは書いたんですけれども、展開が思いつかなくって……。先輩はそういうことってありますか?」
「もちろん。よくあるよ?」
「そういう時って、どうしますか?」
「うーん、そういう時は、思い切って違うことをするかな」
「違うこと、ですか……?」
「そう、例えば、違う場所で執筆するとか。カフェとか、まあ、カフェはお金が掛かってしまうから、本当にどうしても、って時かな……。もしくは、一度外を散歩する、とか……」
そして先輩は途中で言いかけて、少し口角を上げた。
「今日はこれで部活を終わりにしようか」
「えっ? ど、どういうことですか?」
突然のことに俺は思わず先輩に訊ねてしまった。突然終わりにしよう、と言われてしまった。一体どうしてなんだろう。
「気分転換も兼ねて、二人で一緒に、違う場所、行ってみよう、と思ってるんだ。どうかな?」
「違う場所、ですか……?」
「うん、きっと、いい気分転換になると思うよ。18時頃まで付き合ってもらってもいいかな?」
「は、はい」
先輩の柔らかい笑顔に俺は思わずこくりと頷く。18時頃という時間もなんら問題ない。
そして、先輩に連れられて「違うとこ」に行くことになった。「このまま帰ることになるから全部荷物を持ってね」と言われて、リュックサックに荷物を入れて俺は部室棟から出た。
時間帯としては夕暮れに近い時間帯だった。
「先輩、どこに行こうとしてるんですか?」
「とっておきの場所だよ」
「とっておきの場所、ですか?」
「うん。作業が詰まった時は、よく行く場所なんだ」
「な、なるほど……」
俺は先輩の後に続いて歩きはじめた。最寄り駅を過ぎ、人気のある場所から少しずつ離れていった。
先輩は一体どこに行くんだろう。それでも、歩いているうちに少し頭はクリアになってきた気がする。ぐちゃぐちゃに絡まっていたコンセントのような頭の中がだんだんとほどけていく気がした。
先輩は迷うことなく歩いていく。そして、少し小高い丘を登っていった先に……。
「わ……!」
思わず声を出してしまった。夕暮れと星空が混ざったような光景が広がっている。手を伸ばせそうなくらいに近い星空がそこに広がっている。すごく綺麗な場所だ。この町にこんなところがあるなんて知らなかった。
「ここは祖父との秘密の場所。僕が小さい頃から祖父に連れられて、よく来ていた場所なんだ」
「そうなんですね……。すごく、綺麗……」
「こうしてぼんやりと星を見ていれば嫌なことも全て忘れられる、ってね」
「そうなんですね。その、そんなところに、俺を連れて来てくださっていいんですか?」
「星原くんだけ、特別」
「……!」
先輩はとっておきの笑顔で俺の方に視線を向けてくれた。俺の身体に強烈な嬉しさが走る。こんな風に、俺だけ特別扱いして、こんな素敵な場所に連れてきてくれるなんて。
嬉しさを噛みしめながら俺は空を眺めていた。夕暮れが夜の空に飲み込まれて、星空になっていく。空にきらきらと瞬く星空。夜の星は見たことがあるけれど、いつもよりもずっと綺麗に見えた。
星を眺めていたら、俺の頭の中にぶわっ……!とよぎった。それこそ、こないだ先輩のことを考えていた時のように。
「夜桜……」
つい、口から零れてしまった。これからの展開。そうだ、夜桜を見にいってもらおう。
そのまま俺はかばんからノートを取り出して、そのまま、ガリガリと書き始めた。これからの展開に関してメモを取る。雨が降ってしまった二人。雨宿りをしつつ会話をする。そして、雨が上がった後はもう夕方。そんな中、神山の提案で夜桜を見に行くことになる。二人、小高い丘から、夜桜を眺めて、今日一日を振り返る。
ペンを動かす手が止まらない。書きたくて書きたくて仕方がない。そんな状態になっていた。
「もう、きっと大丈夫かな」
「はい、ありがとうございます。大丈夫そうです」
先輩はメモをする俺の方を見て微笑んでいた。そして、先輩と別れた後、俺は家でも書いていた。夜遅くまで。
それから締切りまで、学校に行って部活に行って、そして家でも書いて、を繰り返していた。
そしてやってきた部活の時間。締め切りまで残りあとわずか。俺はひたすらにキーボードを打ち込んでいた。
かたかたと俺は打ち込んで、先輩も、さらさらと原稿用紙の上でペンを動かした。喋ることはほとんどない。お互いの作品に向き合っている。けれども、心地がよかった。
提出日の前日、俺は夜中までも書いていた。テストでも夜更かしが出来たためしがないのに、こうして文章を打つ時は夜更かししてしまった。詰まっていたのが嘘みたいに。
「よし……! できた……!」
そして、提出締め切りの一日前、俺の原稿はようやく出来上がった。ギリギリ、ではあるけれど。先輩も出来上がったみたいで、万年筆の音が止まっていた。
お互い、達成感で溢れた表情を向けて笑い合う。
「あ、あの……、先輩、作品、見てもらってもいいですか?」
「もちろん」
俺は緊張しながら、書きあがった、出来たてほやほや、という感じの作品を先輩に見せる。この入部テストの時と同じくらいに緊張している気がする。
俺の心臓の音と、先輩がぱさぱさとコピー用紙をめくる音が響いている。そして、しばらくした後に、先輩の紙をめくる音が止まる。
「先輩、どうでしょうか」
俺は、どきどきと鼓動を鳴らしながら、先輩に訊ねた。
「とても素敵だよ」
「あ、ありがとうございます……!」
すると、先輩は柔らかい微笑みを俺の方に向けながら言ってくれた。俺の中に柔らかな安心感と、そして、緊張とは違うどきどきが走った。
「星原くんが小説を書いたのってこれが初めて?」
「え、えっと、授業で何回かやったくらい、ですかね……。小学校とか、中学校で……」
「その時って、途中で投げ出さなかったりはしなかった?」
「え、えっと……、確か完結させたかと……。すごく短い話ではあったんですけれど……。どうしてでしょうか?」
「文章が上手い人でも完結させる、っていうのはすごく難しいことだ。だから、こうして、完結させた文章を渡してくれるということはすごく嬉しいよ」
先輩はさらに口角を上げる。先輩の、濃い琥珀色の、綺麗な瞳が柔らかく細められる。俺の心臓が柔らかく高鳴りを見せる。小学生の頃、作文でハナマルを貰ったことがある。それよりも、国語のテストで100点満点を撮った時よりも、ずっとずっと嬉しかった。
「あ、ありがとうございます」
俺はつい頭を下げてしまった。そんな風に褒められたのが嬉しくって。
「それに、星原くんの文章はとてもいいね」
「え……? いい、ですか……? その、全然、上手い、とかじゃないですけれど……」
「上手い、とか下手、じゃなくて、素直で文章を楽しんでいる感じがして、とても素敵だと思う」
「た、楽しんでる、というのは……?」
「その、書いているものが本当に好きなんだな、と思えるような描き方をしているんだ。特に、僕は、この、神山のキャラクター造形がすごく魅力的に感じるよ」
「そ、そう、なんでしょうか……?」
なんだか、先輩への名前の付けがたい想いを見透かされたような気がしてどきどきする俺のこの想いが「好き」なのかはまだ分からない。でも、先輩に魅力を感じているのは事実だから。
「そうだよ。この調子で、星原くんの作品、たくさん見せて欲しいな」
「は、はい……! ありがとうございます」
「でも、きちんと眠ることは大事だからね。昨日も夜更かししていたの?」
「は、はい……。その、ちょっと遅くまで起きてて……」
そして、先輩は俺に近づいた。先輩は俺の目の下を、入部した次の日と同じようにして撫でる。俺の心臓がばくばくと跳ねる。
小澤とか、仲がよかった子達とかに触られても、特に何も感じないのに、先輩にこうして触れられると、俺の心臓が変な動きをする。これって、一体どういう事なんだろう。俺、先輩のこと、どう思ってるんだろう。
「星原くん、あんまり、無理しないようにね。無理すると、身体壊しちゃうからね。ちゃんと睡眠、とってね」
「は、はい……」
先輩はどこか困ったように笑う。その姿ですら綺麗だ、と思ってしまった。きっと今日の夜、眠れないくらいに、俺の心臓が跳ねていた。
「あ、あの、先輩の作品も、読みたいです」
「うん。いいよ」
先輩が原稿用紙を手渡してくれた。タイトルだけは「未定」となっている。綺麗な文字が原稿用紙の上に乗っている。その文字の羅列を一つ一つ追いかける。。読んでいるだけで心臓がわくわくと跳ねた。この文章を読み終わってしまうのが惜しい、と思ってしまうような作品だった。
「どうだった?」
「すごく素敵でした。先輩、やっぱりすごいですね……!」
「ありがとう。嬉しいな。そう言ってもらえて」
先輩が笑う。俺も嬉しくなる。俺も、先輩みたいな文章を書けるように頑張ろう、って思った。
――
そして俺と先輩は、本田先生にできあがった原稿を見てもらいに行った。
「お疲れ様。よく頑張ったね。これでいこうか」
「あ、ありがとうございます……!」
本田先生の言葉に俺は安堵する。芸術文化祭に出す俺の作品が完成した瞬間だった。
俺は悩んでいた。小澤曰く「いい顔」をしているらしい。けれども、「いい顔」をしているとは言え、詰まっているのには変わりはなかった。そうこうしているうちに、締め切りが週末、に迫って来ている。
先輩の隣、パソコンを開く。できかけの文章が一文字も進まずにらめっこ。USBを使って家に持ち帰ったり、もしたけれど、もちろん進まなかった。
「大丈夫?」
先輩が俺の方を覗き込んでいた。
「……なんか、詰まってしまっていて……。その、プロットは書いたんですけれども、展開が思いつかなくって……。先輩はそういうことってありますか?」
「もちろん。よくあるよ?」
「そういう時って、どうしますか?」
「うーん、そういう時は、思い切って違うことをするかな」
「違うこと、ですか……?」
「そう、例えば、違う場所で執筆するとか。カフェとか、まあ、カフェはお金が掛かってしまうから、本当にどうしても、って時かな……。もしくは、一度外を散歩する、とか……」
そして先輩は途中で言いかけて、少し口角を上げた。
「今日はこれで部活を終わりにしようか」
「えっ? ど、どういうことですか?」
突然のことに俺は思わず先輩に訊ねてしまった。突然終わりにしよう、と言われてしまった。一体どうしてなんだろう。
「気分転換も兼ねて、二人で一緒に、違う場所、行ってみよう、と思ってるんだ。どうかな?」
「違う場所、ですか……?」
「うん、きっと、いい気分転換になると思うよ。18時頃まで付き合ってもらってもいいかな?」
「は、はい」
先輩の柔らかい笑顔に俺は思わずこくりと頷く。18時頃という時間もなんら問題ない。
そして、先輩に連れられて「違うとこ」に行くことになった。「このまま帰ることになるから全部荷物を持ってね」と言われて、リュックサックに荷物を入れて俺は部室棟から出た。
時間帯としては夕暮れに近い時間帯だった。
「先輩、どこに行こうとしてるんですか?」
「とっておきの場所だよ」
「とっておきの場所、ですか?」
「うん。作業が詰まった時は、よく行く場所なんだ」
「な、なるほど……」
俺は先輩の後に続いて歩きはじめた。最寄り駅を過ぎ、人気のある場所から少しずつ離れていった。
先輩は一体どこに行くんだろう。それでも、歩いているうちに少し頭はクリアになってきた気がする。ぐちゃぐちゃに絡まっていたコンセントのような頭の中がだんだんとほどけていく気がした。
先輩は迷うことなく歩いていく。そして、少し小高い丘を登っていった先に……。
「わ……!」
思わず声を出してしまった。夕暮れと星空が混ざったような光景が広がっている。手を伸ばせそうなくらいに近い星空がそこに広がっている。すごく綺麗な場所だ。この町にこんなところがあるなんて知らなかった。
「ここは祖父との秘密の場所。僕が小さい頃から祖父に連れられて、よく来ていた場所なんだ」
「そうなんですね……。すごく、綺麗……」
「こうしてぼんやりと星を見ていれば嫌なことも全て忘れられる、ってね」
「そうなんですね。その、そんなところに、俺を連れて来てくださっていいんですか?」
「星原くんだけ、特別」
「……!」
先輩はとっておきの笑顔で俺の方に視線を向けてくれた。俺の身体に強烈な嬉しさが走る。こんな風に、俺だけ特別扱いして、こんな素敵な場所に連れてきてくれるなんて。
嬉しさを噛みしめながら俺は空を眺めていた。夕暮れが夜の空に飲み込まれて、星空になっていく。空にきらきらと瞬く星空。夜の星は見たことがあるけれど、いつもよりもずっと綺麗に見えた。
星を眺めていたら、俺の頭の中にぶわっ……!とよぎった。それこそ、こないだ先輩のことを考えていた時のように。
「夜桜……」
つい、口から零れてしまった。これからの展開。そうだ、夜桜を見にいってもらおう。
そのまま俺はかばんからノートを取り出して、そのまま、ガリガリと書き始めた。これからの展開に関してメモを取る。雨が降ってしまった二人。雨宿りをしつつ会話をする。そして、雨が上がった後はもう夕方。そんな中、神山の提案で夜桜を見に行くことになる。二人、小高い丘から、夜桜を眺めて、今日一日を振り返る。
ペンを動かす手が止まらない。書きたくて書きたくて仕方がない。そんな状態になっていた。
「もう、きっと大丈夫かな」
「はい、ありがとうございます。大丈夫そうです」
先輩はメモをする俺の方を見て微笑んでいた。そして、先輩と別れた後、俺は家でも書いていた。夜遅くまで。
それから締切りまで、学校に行って部活に行って、そして家でも書いて、を繰り返していた。
そしてやってきた部活の時間。締め切りまで残りあとわずか。俺はひたすらにキーボードを打ち込んでいた。
かたかたと俺は打ち込んで、先輩も、さらさらと原稿用紙の上でペンを動かした。喋ることはほとんどない。お互いの作品に向き合っている。けれども、心地がよかった。
提出日の前日、俺は夜中までも書いていた。テストでも夜更かしが出来たためしがないのに、こうして文章を打つ時は夜更かししてしまった。詰まっていたのが嘘みたいに。
「よし……! できた……!」
そして、提出締め切りの一日前、俺の原稿はようやく出来上がった。ギリギリ、ではあるけれど。先輩も出来上がったみたいで、万年筆の音が止まっていた。
お互い、達成感で溢れた表情を向けて笑い合う。
「あ、あの……、先輩、作品、見てもらってもいいですか?」
「もちろん」
俺は緊張しながら、書きあがった、出来たてほやほや、という感じの作品を先輩に見せる。この入部テストの時と同じくらいに緊張している気がする。
俺の心臓の音と、先輩がぱさぱさとコピー用紙をめくる音が響いている。そして、しばらくした後に、先輩の紙をめくる音が止まる。
「先輩、どうでしょうか」
俺は、どきどきと鼓動を鳴らしながら、先輩に訊ねた。
「とても素敵だよ」
「あ、ありがとうございます……!」
すると、先輩は柔らかい微笑みを俺の方に向けながら言ってくれた。俺の中に柔らかな安心感と、そして、緊張とは違うどきどきが走った。
「星原くんが小説を書いたのってこれが初めて?」
「え、えっと、授業で何回かやったくらい、ですかね……。小学校とか、中学校で……」
「その時って、途中で投げ出さなかったりはしなかった?」
「え、えっと……、確か完結させたかと……。すごく短い話ではあったんですけれど……。どうしてでしょうか?」
「文章が上手い人でも完結させる、っていうのはすごく難しいことだ。だから、こうして、完結させた文章を渡してくれるということはすごく嬉しいよ」
先輩はさらに口角を上げる。先輩の、濃い琥珀色の、綺麗な瞳が柔らかく細められる。俺の心臓が柔らかく高鳴りを見せる。小学生の頃、作文でハナマルを貰ったことがある。それよりも、国語のテストで100点満点を撮った時よりも、ずっとずっと嬉しかった。
「あ、ありがとうございます」
俺はつい頭を下げてしまった。そんな風に褒められたのが嬉しくって。
「それに、星原くんの文章はとてもいいね」
「え……? いい、ですか……? その、全然、上手い、とかじゃないですけれど……」
「上手い、とか下手、じゃなくて、素直で文章を楽しんでいる感じがして、とても素敵だと思う」
「た、楽しんでる、というのは……?」
「その、書いているものが本当に好きなんだな、と思えるような描き方をしているんだ。特に、僕は、この、神山のキャラクター造形がすごく魅力的に感じるよ」
「そ、そう、なんでしょうか……?」
なんだか、先輩への名前の付けがたい想いを見透かされたような気がしてどきどきする俺のこの想いが「好き」なのかはまだ分からない。でも、先輩に魅力を感じているのは事実だから。
「そうだよ。この調子で、星原くんの作品、たくさん見せて欲しいな」
「は、はい……! ありがとうございます」
「でも、きちんと眠ることは大事だからね。昨日も夜更かししていたの?」
「は、はい……。その、ちょっと遅くまで起きてて……」
そして、先輩は俺に近づいた。先輩は俺の目の下を、入部した次の日と同じようにして撫でる。俺の心臓がばくばくと跳ねる。
小澤とか、仲がよかった子達とかに触られても、特に何も感じないのに、先輩にこうして触れられると、俺の心臓が変な動きをする。これって、一体どういう事なんだろう。俺、先輩のこと、どう思ってるんだろう。
「星原くん、あんまり、無理しないようにね。無理すると、身体壊しちゃうからね。ちゃんと睡眠、とってね」
「は、はい……」
先輩はどこか困ったように笑う。その姿ですら綺麗だ、と思ってしまった。きっと今日の夜、眠れないくらいに、俺の心臓が跳ねていた。
「あ、あの、先輩の作品も、読みたいです」
「うん。いいよ」
先輩が原稿用紙を手渡してくれた。タイトルだけは「未定」となっている。綺麗な文字が原稿用紙の上に乗っている。その文字の羅列を一つ一つ追いかける。。読んでいるだけで心臓がわくわくと跳ねた。この文章を読み終わってしまうのが惜しい、と思ってしまうような作品だった。
「どうだった?」
「すごく素敵でした。先輩、やっぱりすごいですね……!」
「ありがとう。嬉しいな。そう言ってもらえて」
先輩が笑う。俺も嬉しくなる。俺も、先輩みたいな文章を書けるように頑張ろう、って思った。
――
そして俺と先輩は、本田先生にできあがった原稿を見てもらいに行った。
「お疲れ様。よく頑張ったね。これでいこうか」
「あ、ありがとうございます……!」
本田先生の言葉に俺は安堵する。芸術文化祭に出す俺の作品が完成した瞬間だった。



