部活停止期間とテストそのものを合わせて、10日ほど。その間に考えていたのは、先輩とのこれからの付き合い方だった。先輩との関係を進ませたい、という感情と、この関係を潰さない方がいいのかもしれないという思考で悩んでしまっている。

――好き、なんです……!
――……ごめんね

あの本に書かれた言葉を思い出す。
先輩に告白しようとして、失敗したら、もしかしたら、先輩との関係が壊れてしまうかもしれない、と思ってしまった。
 最近は同性でのお付き合い、とかはすごく当たり前、みたいな感じになっている。それこそ、ドラマでも同性愛とかBLを取り扱ったドラマがある。それでも、先輩に俺の恋心が受け入れられるか、は別だろう。先輩が作品内で、同性同士の恋を扱っていても、先輩がそういう恋 を受け入れられるか、はまた別だろうから。それこそ、あの本みたいに。異性同士でも失恋、はあるし。部活の後輩から、しかも同性から突然「好きです!」なんて言われたら、びっくりしてしまうと思う。俺が先輩の立場だったらなおさら。
 

「やっぱり、先輩後輩、がいいのかな……」

 叶わない恋、だったら、関係性がそのままの方がいいかもしれない。俺は悩んでしまっていた。

そしてテスト期間が明けた。一番最初に返却されたのは国語のテスト。

「星原ー、テストどうだった? 俺は平均点ちょい上」

 小澤が俺にテスト用紙を差し出した。俺も並べる。中学からよくやっていたこと。小澤は平均ちょい上、とは言うけれども結構ないい点数。俺は平均よりちょっと下。次はもうちょっと頑張ろう、という感じの点数。

「なるほどな。お、でも作文だけは満点だな……」
「うん」
「やっぱ文芸部パワーって感じだな」

でも、国語の作文問題だけは満点だった。返却される時、「星原くんが一番いい文章書いてたわよ」って言われた。それはちょっと嬉しかった。

そして、俺の足は部活動へと向かっていった。あの話を読んだからか、先輩と、これからどういう距離感で過ごせばいいのか、は未だに考えてしまう。それでも、久しぶりに先輩に会える、というのが楽しみだった。

「し、失礼します」
「ああ、星原くん、お疲れ様」
「お、お疲れ様です……!」

がらがらと引き戸を開ける。先輩は既に来ていた。俺を見て柔らかく笑ってくれた。最後の部活の日以降、久しぶりに先輩と会えた。なんだか嬉しくなってしまう。同時に、先輩とどういう関係でいたいのか、が頭の中をよぎった。

 先輩の向かい側に座り、プロットを書く作業をする。先輩との関係を考えるのと同じよう
に、プロットも白いまま進まない。何を、書こうか。先輩にもらったシャープペンを持つ
も全く進まない。

「何か悩んでる?」
「……、あの、先輩は、もし、叶わないかもしれない恋をしたら、どうしますか? そ、その……、これは、作品に大して、みたいな感じの質問です」

 誤魔化すように俺は訊ねる流石に、先輩のことで悩んでいる、というのは言えなかったから、作品のことを訊く体で訊いた。

「作品に、叶わないかもしれない恋? 身分差、とか?」
「…………うーん、その、身分差、とかもあるんですけど、その……、受け入れられる、か、とか……。あと、性別の違い、とか……」

 俺はどこかまとまらないまま言う。

「なるほど、それは、難しいね……」
「……その、叶わない恋、でも、その相手を好きでいて、いいと思いますか?」
「それは全然、いいと思うよどんな相手に対しても、想うのは自由だと思う。好き、という気持ちはとても大事なものだからね。僕は、星原くんの恋がどんな相手であっても、僕は、その恋を、応援したいと思っている。だから、星原くんは、その気持ちを大事にして欲しいな」

 先輩は柔らかな笑顔を見せながら言う。

「あ、ありがとうございます」

 先輩の言葉に、俺の心が少し解れていくよう。俺は先輩のことを好きでいていいんだ。少しだけ安心感が広がった。同時に、優しく言ってくれる先輩のことを、さらに好きになってしまう。

「ちなみに、書きたいのって、どんなお話?」
「え、えっと、その、高嶺の花、みたいな人に、恋する人の話を。その、男性、同士の……、恋愛小説を……」

 先輩に訊ねられて、そして、今のまとまっていない頭の中を取り出すように口にする。

「なるほど、とても興味深いね。星原くんの書く話だからきっと素敵な話になるはずだよ。楽しみにしているよ」
「は、はい。ありがとうございます」

 先輩の柔らかい笑顔に俺の心臓がときめく。そこで、俺が書くものが決まった瞬間だった。