「お兄、さんは…」


「もう居ません。この手紙を書いた一週間後に亡くなって。四十九日が昨日終わって落ち着いたので、渡しに来ました。遅くなって、すみません」


「…ご愁傷様です。忙しいのに、わざわざありがとう。お兄さん、この間会った時、顔色悪かった気がしたんですけど、病気だったからなんですね」


「しんどいのに、行きたいって聞かなくて。理由を聞いたら、会いたい人がいるからって。俺たちも先生を説得させて、どうにか」




理由を知っていたら、帰していた。


でも理由を言えば、私が病院に帰すのを分かっていて、それでも私に会いに来てくれた。




危険なのは、好青年自身が分かっていたこと。


山口県と岡山県と、遠く離れた場所で、しかも夜中に倒れても、好青年を知る人が居なければ、助けられる人は居ない。



私も事情を知らないから、岡山の病院に付き添っても、好青年自身が話せなかったら、助けようがない。


そんな命懸けで会いに来てくれていたなんて。




「ここには、よく来ていたみたいなんです。良い秘密基地見つけたって話してくれたことがあって。でもある日、秘密基地から帰って来た時、目をこれまでにないくらいキラキラさせて、結婚したいって言い出して」


「結婚?」


「多分あなたに会った日だと思います。病気を治して、あの子と結婚するんだって…。でも日に日に弱っていって、俺も見てて苦しくて」




末期のガンなんて、そう打ち勝てるものでもない。

死を間近に感じる、手強い敵。


病気を隠してここに来るほど、好青年にとっても思い出深く、私のために会いに来てくれる、特別な場所だったんだ。