「――っ!?」

 日課の祈祷をしていた紫苑はがくりと膝をついた。

「紫苑様!?」

 突然倒れた紫苑に従者たちが心配そうに駆け寄ってくる。
 衝撃で神鏡は割れ、口元を抑えた紫苑の手からは赤黒い血がぽたぽたと滴り落ちる。

「紫苑様、血が!?」
「だれか医者を呼べ! 姫巫女様が血を――!」

 大混乱の中、紫苑は流れる血を見てくつくつと笑う。

「呪い返し……ふうん。あの子が私に逆らうなんて、ね」

 夜神以外を殺すつもりで暴走をけしかけた呪いが、自分に跳ね返ってきたのだ。
 今まで道具のように扱ってきた愚かな妹がはじめて自分に刃向かった。
 その現実は紫苑は怒るでもなく、悲しむでもなくただ笑った。

「うふふふふっ……本当に可愛い子。そんなことをされるとどこまでも虐めたくなってしまうじゃない」


「呪紋の巫女は夜叉の愛に囚われる」 完