「椎名先輩」

 コーヒー牛乳を嚥下したまま、目で吏那に応答する。

 吏那は日本人にしては色素の薄い茶色の瞳を俺に向けていた。

 何か言いたそうに。
 でも言いにくそうに。

 「もし私が……」

 吏那はそこまで言って、視線を落とした。

 瞼を伏せると、より吏那の睫毛の長さが際立った。

 「やっぱり何でもないです」

 そう吏那は柔らかな笑みでごまかした。

 「気になるじゃねぇか。言えよ」

 「本当に何でもないです」

 この時、吏那が俺に打ち明けようとしていた“秘密“。

 その“秘密“が吏那をどれだけ苦しめていたのか、俺が知るのはそれほど遠くない未来で、愚かなほど遠回りしてからだったりする。