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　大学の授業に出て、部活前に一度寮に戻った。

　男子錬成館の三階の中心には、一カ所ミーティングルームがあり、実質ラグビー部のたまり場となっていた。

　机と椅子を置き四十人ほど入れる大部屋で、片側が一段高い演台になっている。ＤＶＤ再生機材、プロジェクターのスクリーンやスピーカーも完備されていた。

　廊下をはさんだ正面にトイレと自動販売機がある便利な場所で、ミーティングの時以外は、暇になるとここに溜まってしゃべったり、携帯ゲーム機を持ち込んだりするのが部員の日課になっていた。先輩と同室で気詰まりな下級生が集まることが多いのだが、今日はやや不謹慎な煙の臭いがしている。

　秀幸が空きっぱなしのドアの前に立つと案の定、例の人が部員たちの中心に座っているのが見えた。

　元フルバック、曽我亮二だ。

　五、六年前に卒業したＯＢだと聞いている。よほど仕事が暇なのかチームのバックスコーチをひきうけ、しょっちゅう寮にあがりこんでいた。
　監督はじめコーチングスタッフは選手とのなれあいを忌避して、ミーティング以外に寮に踏みこむことはなかったが、曽我だけは型破りの存在だった。
　仕事中に寄っているのか、今日もスーツ姿だった。彼から実践的ラグビー理論をききたい部員たちが周囲をとりまいている。監督の話やラグビー教本では難しすぎて理解できない部員も、曽我のはすっぱな言葉で説明されるとすぐ納得できるようだった。