陰陽師の花嫁

バンッ!

広い屋敷に乾いた音が響いた。

優菜(ゆうな)は、腫れた頬を抑えた。

「なによ。私が悪いって言うの?」

愛菜(まな)が嘲笑うように優菜を見下ろしていた。

近くには割れた湯呑みとお茶があった。

優菜がお茶を運んでいたところに、愛菜がぶつかってきたのだ。

「あーあ、着物が濡れちゃったじゃない。どうしてくれるの?」

そこに、母親がやってきた。

「大きな音がしたけど、どうしたの?」

「お母様!優菜がね、私にお茶をかけたのよ」

それを聞いた母親は、キッと優菜を睨みつけた。

「本当になにも出来ないダメな子ねぇ。愛菜が火傷でもしたらどうするつもりだったの?」

「…」

「そこを早く片づけなさい。それと、夕飯は抜きだからね」

母親と愛菜が去った後、優菜は割れた破片を片づけ始めた。

「痛っ!」

破片で指を切ってしまった。

指から流れる血をぼんやりと見つめた。

(私にも、力があればこんな思いをしないで済んだのかな…)

この家系では、女の子が生まれると、巫女の力を持って生まれてくる。

そして、異能を持つ家に嫁ぐのだ。

しかし、優菜はなんの異能も持っていなかった。


数日後。

「愛菜、お前に縁談の話が来ている」

父親にそう言われた優菜は、喜びの声を上げた。

「お相手はどんな方なの?」

愛菜の隣で話を聞いていた母親が尋ねた。


隣の部屋で聞いていた優菜も気になって聞き耳を立てた。

「とても家柄のいいご子息だそうだ。一週間後に顔合わせをするからな」


その日の夜。

優菜は自分の部屋で、愛菜の縁談のことを考えていた。

(私にも力があれば、どこか貰い手があったのかな…こんな扱いを受けないで済んだのかな…)

考えても仕方がないことを考えて、いつのまにか眠りについた。

優菜は、ある夢を見ていた。

綺麗な青い蝶が出てくる夢だ。

その蝶を追いかけていくと、誰かの後ろ姿が見えた。

その人物はゆっくりと振り返って言った。

「やっと会えた。俺の運命の花嫁」

蝶と同じ青い瞳が優しく笑った。


優菜は目を開けた。

(夢…?)

まどろみの中、今さっき見ていた夢のことを考えた。

青い蝶、青い瞳の…

「優菜、いつまで寝ているの?起きなさい!」

母の声が聞こえて、布団から出た。


優菜は、母親に言われ、買い物に来ていた。

食材を両手に抱えて、フラフラと歩いていた。

荷物に気を取られ、前をよく見ていなかったせいで、人にぶつかってしまった。

「すみません」

「こちらこそ失礼。怪我はありませんか?」

差し出された手を取った。

優菜はその顔を見て、時が止まった。

夢で見た青い瞳をしていた。

「荷物が落ちてしまいましたね」