「センパイ、センパ〜イ!」

 うっ、うざい……。

「一緒に帰りましょーよ〜、ねーセンパ〜イ」

 この子、うぜぇ……。うざすぎる。

「ねーセンパ〜イ」

 黒髪の短髪で、ちょっとぼさぼさっとしてる、刺さったら痛そうな、ツンツンヘアーのやんちゃな男子生徒。
 多分、センパイって言ってるし、新入生のお祝いバッジ付けてるし、絶対一年生だよな……。

「センパ〜イ」
 ……にしてもうざい。

 なんか言った方がいいのかな? 私が見た、この先の未来もある。出来れば関わりたくないんだけど……。

「センパイに話しかけてから、ぜーんぜんセンパイの声聞いてないっすよ〜? その可愛い声を聞かせてくださいよ〜」

 ……ぐぐっ。うざい。そして、キモい。どうにかして遠ざけたい。なにか言わなければ、なにか、なにか。

「あっセンパイ、ちょっといいっすか?」

 私の手を掴み、ぐっと、でも、優しく静止させてきて。私の頭に手を伸ばしてくる。
 なっなに……!?

「やっ、やめて!!」

 パシッ、と手を振り払う。思わず、目を瞑っていた私は、そっと瞼を開けた。

「おっ、ちゃんとホコリとれた! すげーでかいホコリだ〜!」

 ……へっ?
 なんか無邪気に、わいのわいの、きゃっきゃ喜ぶ彼は、どこか、子供っぽくて。どこか、一人の女の子に恋をする、一人の男の子に見えて。

「センパイについてたホコリすげーっすよ! ほら! こんなでかい白い綿ぼこり!」

 なに、言ってんの? そんな、喜ぶ事?
 そんな喜ぶ事じゃ、そんな、喜ぶ事じゃないじゃな……、
「ぷふっ、くふふ、あははははは!」

 私はなぜか、彼の行動が可笑しく思えて、ついつい笑ってしまう。

「あっ、センパイ笑った! そんな変な事してないですよ、オレ!」

 彼には失礼だけど、可笑しくて可笑しくて。

 笑って、笑って、ひとしきり笑って。

 笑い疲れたら、彼はむくれた顔をしていて。

「センパイひどいなぁ〜。でもセンパイ、ちゃんと笑えるんですね。さっきからずーっと無愛想だったからやっと笑ってくれて嬉しいっす!」

 そっちの方が可愛くて似合いますよ。なんて、一言余計な事も、言ってくれて。

 なんだろう。なんなんだろう、この子は。

 なぜか、この子ともっと、いたいと思えてきて。

 でも、それは、叶わないというのは、知っていて。

 あなたも、仲良くしては、すぐにいなくなるんでしょう?

 あなたも、私から離れるんでしょう?

 だってあなたは、あなたは。
(私の記憶に映るあなたは……もう……)

 
 あなたの、春野ケイの葬式を。
 ……見てしまった。