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「ミュウーラっ、なんですかこれは! こんな退(たい)くっ……生徒に優しくないやり方は、ユル教師失格ですよ!」

 プンプンと大きく頬を膨らませて、相談室に入って来たのは天麗(あめり)だ。

「そんなこと言ったって、あんな騒ぎがあったんだ。惣賀(そうが)さんだって既読になってたから、見たんでしょ」

「不穏画像からミュウーラの怒りコメへの華麗な転換が迅速すぎてワロタでしたね。日付が変わる時間だったのに、どんだけブラックなんだって」

「そうだよ、オレに休みはないの。けど都度適切に向き合わないと、若い君たちの時間はあっという間なんだから。ブラックでも君たちを想ったら病んでる間は無いの」

「おぉ。ミュウーラは、病みをも従えた闇属性教師でしたか! ムリはダメですよぉ」

「やさしっ!? ケド茶化してるよね!?」

 昨日と変わらない天麗(あめり)には、疚しいところなど一切ないように思える。それでも三浦は、さらに注意深く観察すべく質問をぶつける。

「それで、惣賀(そうが)さんは転校からまだ三日目なんだけど。学園には慣れたかな? 2年1組に話をする子はできた?」

 話の切っ掛けとして、特に問題なく返答できる単純な質問を投げ掛けたつもりだった。けれど、受けた天麗(あめり)は半眼になり、ふん・と強く鼻息を立てる。

「ミュウーラ、遠回しなのは嫌いです。わたしが音楽の授業で、あの不穏トークの語り手と見られる亜美さん(仮)(かっこかり)に反対意見を言ったから疑ってるんですよね。
 わたしに疚しいところは無いので、何を聞かれたって答えますよ。空振りにしかならない時間の無駄でしょうけど」

 三浦や恵利花が想像していた通り、真っ直ぐな返答が返って来た。思わず微笑みかけて、けれど深刻に顔を引き締めた天麗(あめり)に、三浦は慌てて唇を引き結ぶ。

「ただ――あれは本当に、生徒の誰かが誤爆か、悪意投稿したんでしょうか? それで合ってますか? あの投稿で得するヒトなんて、誰も居ないです。何か変じゃないですか?」

 遠くを見通す天麗(あめり)の視線に、三浦も小さく頷く。

「だから。その違和感を掴むために、聞き取りをしてるんだ。前代未聞の事態が起こった今、ちょっとでも問題の手掛かりを掴みたい」

「おぉ、教師の(かがみ)ですね! 学園ミステリーに立ち向かうユル教師ミュウーラ! 断然応援しちゃいます。だから薮りんとの席を、是非ともお隣同士に替えてくださいっ!!」

 意外に鋭い洞察力を見せ、真面目に語ったかと思えば、すぐにいつもの調子に戻る天麗(あめり)だ。

「それとこれとは別! 惣賀(そうが)さんは、馴れ合いより先に、ちゃんと授業に集中して欲しいんだけどぉ」

 三浦が堪らず声を上げれば「やっと元気になりましたねミュウーラ」と、不敵な笑顔が返って来た。

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 昼食時間になると、まだ聞き取りの順番が訪れていない生徒は、聞き取りを終えた者に、話の内容を教えてくれと群がった。

 昨夜の一瞬で消えた問題画像。それに関わる続報を興味本位で掘り下げようとする野次馬が殆どなのだが、中には少々問題のある使い方をしていた者も紛れていて、自分への飛び火を避けるための対策として情報収集をしている。何れの者も事前情報・経過情報を得ようとして、教室内はやけに浮足立ち、ざわついている。

 そんな中、渦中の人となってしまった亜美は、休憩のチャイムと共に教室を離れてしまった。

「亜美は、保健室に行ったみたい」

 廊下から戻って来た一色 恵利花が、天麗(あめり)来生(きすぎ) 稜斗(りょうと)に「心配だね」と言葉を添えて、しんみりと呟く。

(まぁ、今日ばかりは仕方ないですよね)

 天麗(あめり)はそう思いつつも、「はい。亜美さんが思い詰めないか心配です」と言葉にする。けれど 稜斗(りょうと)は同意の言葉は口にせず、大きなため息を吐いた。

「亜美は、こんな騒ぎの中心になったんだから。……仕方ないだろ」

 薄情にも取れる言葉だったが、彼は苦悩も顕わに、前髪を片手でクシャリと握り潰した。