─生物実験室

「こんにちは」
「オイーッス!」

 引き戸を開け、入室する礼と唯。

「おいっすー」
「あらこんにちは。唯も礼ちゃんも元気ねえ」

 挨拶を返すのは、机に腰掛けて雑誌を開いていた、さくらと志麻《しま》。

「何を読んでるんですか?」

「これはねぇ、AQUA LIVES(アクアライヴス) っていうアクアリウムの専門誌なんよ〜」

 と、さくらは読んでいた雑誌を礼に手渡す。

「雑誌なんてあるんですか!?」

 礼はページを捲る。 誌面には綺麗なカラー写真で図解される魚や水草、モノクロページにびっしり書き込まれた活字、 用品や店の広告などが記載されているではないか。

「そりゃあ、あるよ。日本人は室町時代にはもう金魚を飼ってたんだから、歴史ある趣味なんだよ?アクアリウムは」

 と唯。 現在の中国にあたる国でフナから金魚が作られたのが約二千年前と言われているので、世界的に見ても観賞魚飼育という趣味の歴史は古い。

「今はこのアクアライヴスだけになっちゃったけど、以前までは月に3冊も出てたのよ」

 志麻は机の上にあった2冊の雑誌を指さす。

「『嬉しい熱帯魚』に『SAKANA MAGAZINE』……」
「『うれ熱』も『サカナマガジン』も休刊しちゃってねえ……」

 さくらが言ったその時だった。 ガラッと音を立てて入り口の引き戸が開く。