壁際に備え付けられた棚に様々な大きさの水槽が、全部で5つ設置されている。

「これらは我々が管理している水槽さ。部員一人に原則として1つ、水槽を管理させている」
 と、光青。ひと口に「水槽」と言っても、中に入っているものは様々だ。 砂が敷かれ、鮮やかな水草 が植えられたものもあれば、何も敷いていない中を、大きな魚が泳いでいるもの等。

「これ、全部が 「アクアリウム」なんですか?」

 礼は問う。彼女が顔を近づけた30センチ四方の水槽の中では小さな魚が2匹、アーチ状の石の内側に
産み付けられた卵を護るように泳いでいた。

「そだよ~。因みにソレはウチの水槽で、入ってる魚はアピストグラマ・アガシジィ。産んだ卵と孵った赤ちゃんを夫婦で育てる魚なんよ~」

 と、さくらが礼の顔の横に自らの顔を並べる様にして言う。

「この魚、先輩が卵まで産まさせたんですか!?」

 礼は距離感の近い先輩に少し困惑しながらも聞く。

「そ。ウチは色んな魚を繁殖さすんが得意やけん」 

 と、さくらは微笑む。

「アクアリウムとは、一つの水槽の中に環境を再現するという事!環境さえバッチリ合えば、そのアピストの様に水槽内で子孫を残し世代交代する事すらも出来る!!」

 更に光青は続ける。

「コレは志麻くんの水草水槽。綺麗だろう?」

 光青が指差したのは、60センチ幅の水槽。中には緑色の様々な水草と、差し色の様に赤い水草が植えられている。

「お、このドルマリア・コルダータを見てごらん?」

 と、水草の名前と草体の姿は一致しないが指示された先を見ると、丸い葉をした水草の葉から小さな気泡が吐き出され、水面へと駆け上ってゆくところだった。

「水草は光を浴びて、水中の二酸化炭素を酸素に変える。そこで生まれた酸素が先ほどの気泡さ」

 水槽の中では小さな魚が、エビが、水草の恩恵を享受しながら暮らす。そして魚やエビの排出した二酸化炭素や糞は水草が分解する。さくらの繁殖水槽でも見た様に、水槽の中は生命のサイクルが築かれた一つの宇宙の様だった。

「奥が深いんですね、アクアリウムって」

 礼は今まで病院の待合室等で水槽を目にする事はあっても、それを興味深く観察した事などなかった。単純に綺麗だな、何か魚が泳いでるな、以上の感想を水槽に抱いたのはコレが初めてだった。

 その他、大きな魚達が泳ぐ大型水槽や海水魚水槽など、を一通り見る。

「可愛いですね、魚って」

「フフフ…ならば魚の一番可愛らしい姿を見るとよかろう!」

 と、言って光青はブレザーのポケットから何やら筒状のモノを取り出した。

「僕の水槽の魚達に餌を与えてみたまえ」

「いいんですか!?」

 なぜ制服のポケットに魚の餌を入れていたのかはさておき、礼は筒状の入れ物からフレーク状の餌を取り出して、様々な魚達が泳ぐ90センチ幅の水槽に餌を投入した。