「水を入れる前にフィルターをセットするぞ。今回使うのは上部式フィルターと、投げ込み式フィルターだ」

 寅之介が黒い箱状のプラスチックにポンプとパイプの付いた大きな器具と、掌に乗るほどの八角形をした半透明なプラスチックを取り出した。

「それは何に使うんですか?」

「フィルターは、水のキレイさを保つ為に使うんだ。まずこの上部式ってのは、こうやって水槽の上に置くようにセットする」

  と寅之介が水槽の上に上部フィルターを置くと、水槽の縁に丁度よく、それがはまった。フィルターという器具は水槽の規格に合わせて造られていることが殆どで、その中でも上部式フィルターは水槽の横幅に対応しているものを選ばなければ応用が効かない。

「この箱みてえな所は濾過槽だ。ここに櫨材を入れていく。リング型とボール型櫨材、スポンジマット、ウールマットの順番で入れていく」

「入れる順番は決まってるんですか?」

「ああ。ここのポンプで汲み上げた水槽の水を、濾過槽に上から落としてくんだが、まずウールマットで魚のウンコや餌の残り、水草の切れ端みてえなデカいゴミを濾す。そこをすり抜けた小さいゴミや汚れはスポンジマットが受け止める。ここまでが物理過。次にリングやボールの櫨材に住み着いたバクテリアが水の汚れを分解する。 これが生物濾過だ。 そして濾過されて少しキレイになった水は出口のパイプからまた水槽に戻るってわけだな」

「次にこの小さいのが投げ込み式フィルター。この『水作エイト』か、四角い『ロカボーイ』、 陶器で
出来た『パワーハウス』ってのが主に売られてるよ。水作エイトとロカボーイは好みで 選んでいいけどパワーハウスはめっちゃ高いから、おいそれと買えるもんじゃあないね」
 
 と、説明しながら唯はシリコン製の細い管・エアチューブを水作エイトから出たプラスチックのジョイントに繋ぎ、反対側の末端を小さな電子機器に繋ぐ。

「これはエアポンプ。ここから空気を送り出して、発生する水の流れを中の櫨材に通すの。こうやってエアポンプを使うのはエアリフトってやり方だから覚えておくといいよ」

「エアポンプで空気を送って水中に酸素を溶かすのはエアレーションだ。ややこしいが、まあ自然に覚えられるだろう。この水槽は上部式がメインのフィルターで、水作エイトはエアレーションを兼ねたサブフィルターってとこだ」

「ガンダムの武器で言うと上部フィルターがビームライフルで水作エイトがこめかみのバルカンだよ」

「ごめん唯ちゃん、その例えもわかんない。……でもすごいんだね、フィルターって」

「だけどね、フィルターだけじゃ永遠に水をキレイには保てないから定期的に水を一定量替えなきゃいけないんだよ」

「それに櫨材も数ヶ月に一度洗ったり、半年に一度は新品に交換する。上部式や投げ込み式はメンテナンスも簡単な方だが、俺の水槽に使ってるオーバーフロー式や姐さんの外部式、光さんの底面式はメンテナンスもめんどくさい」

「めんどくさいしお金も掛かる趣味なんですね、 アクアリウムって……」

 痛い本質を突いてくれるなという顔をしながらも寅之介と唯は次の行程へ。