寅之介は机に置かれた60センチ水槽を指さす。

「まず水槽!これが無いと始まらん」

「はい!」

 礼が挙手する。

「何だ?」

「この水槽、大きくないですか……?」

 礼の前にあるのは幅60センチ、高さ36センチ、奥行き30センチのガラス製水槽。通称60レギュラーと呼ばれるものだ。日本国内で流通する水槽にはサイズの規格があり、60センチ水槽はこのサイズが基本だが、高さの低い『60らんちゅう水槽』や、高さと奥行きが45センチある 『60ワイド水槽』といったものもある。
「60レギュラーは普通サイズだし、何なら小さい方だ。 俺の水槽の3分の1ぐらいだぞ?」

 寅之介が指さす彼の水槽は幅180センチ、高さ60センチ、奥行き60センチという市販品として流通する水槽規格では最大のものだ。

「先輩の水槽が大きすぎるんですよ!……さくらさんがアピストってのを飼ってるようなサイズでいいのになぁ」

 と、礼が見たさくらの水槽は30センチ四方の小さな水槽。彼女はこれを6本管理し、アピストやベタ等の魚を繁殖させている。

「礼ちゃん、小さい水槽ってのは、お手軽に見えて大変なんだよ?」

「そうなの?」

「水ってのはな、量が少ないほどダメになるのが早い。だから小さい水槽は水が少ない分、水換えや水質調整が頻繁になるんだ。だから初心者向きじゃねえのさ。60センチってのは見慣れてない人間にはデカく見えるが、初心者向けのサイズなんだよ」

 なるほど、と礼は納得した。

「それに、アクア沼にハマったら60くらいじゃ物足りなくなるから大丈夫大丈夫!」
「大丈夫じゃないよ!?怖っ」

「赤比、ソイツを向こうの棚の空いてる所まで持ってってみろ」

「はい……って重っ!?」

 礼は思わず声を上げる。

「何言ってんだ。更に底砂、レイアウト用の石や流木、そして水を入れたら人の手じゃ持てないくらい重くなるんだぞ?」

「そうそう。だから水槽を置く台や床の強度なんかは事前に調べておかないと大変な目に遭っちゃうんだよ」

 笑い飛ばしながら話す唯と寅之介。

「因みに水槽の素材にはガラス以外にアクリルとプラスチックなんかもあってな。そっちはガラスより軽い」

 なお、アクリル水槽は値段がガラスのものより倍以上高くつく、プラスチックは強度が脆いなど、それぞれメリットとデメリットを有している。

「水族館のバカデカい水槽はガラスじゃなくてアクリルを何層も分厚く塗ってるから、滅多に割れたりしないんだよ?知ってた?」

「そんな事より重いよ〜……」