『星来がライラを連れて、わが家の玄関前に到着』

 今朝、アキちゃんはそう言っていた。

 でも、今日はライラちゃんはいないはずだ。

 キーホルダーもないし、先生たちに向かって星来自身がそう言っていた。

「春奈?」

 星来は、不思議そうに首を傾げる。

 星来……ううん……

「……ライラちゃん?」

「え?」

「あなた、ライラちゃん?」

「ええっ?」

 まさか、さすがにそんなことはないと思っていたけど、違和感は消えない。

 星来なら違うって笑って、否定して欲しかった。

「何、言ってるの?」

 面白い!と星来は笑うけど、まったく面白くなかった。

 その笑い方は、たしかにとっても可愛いし魅力的だったけど、星来のものではなかったからだ。

 ずっとおかしいと思っていた。

 それに、『俺が接してたのは……』という松岡くんの言葉も気になった。

 どうやって彼女が星来の姿をしているのかわからない。

 わからないけど確信をしたら、見れば見るほど星来に見えなくなってくる。

「ねぇ、星来はどうなったの? なんで星来の姿なのに……ライラちゃんなの?」

 思わず掴みかかる勢いで、星来に近づく。

 このままではいけないと本能が悟る。

「は、春奈?」

 自分でも言っていることがわからない。

 はたから見たらおかしな人だろう。

 でも、この人は、星来ではない。

 星来の姿かたちをしていても、絶対に星来ではないのだ。

「もう、わけのわからないこといって〜」

「せい……」

「帰ろ、春奈!」

 星来の姿をしたライラちゃんは、まるでいつもと変わらないと言わんばかり親しげにわたしの腕を取り、歩き始めた。

 松岡くんがいたのに、追いかけなかった星来。

 彼がいたらいつも恋する乙女のセンサーが発動したみたいに飛び跳ねて、最高に可愛いしぐさと笑顔で追いかけていくのに。

 わたしの腕に両手を回し、不気味なほどニコニコして、終始ご機嫌な星来。

 考えれば考えるほど、違和感しか感じられなかった。

 いつも通りの帰り道は、あえて変なことは言わないようにした。

 ほとんど星来が話す中、当たり障りのない会話を繰り返しながらも頭の中はいっぱいいっぱいでぐるぐる回っていたけど、とにかく冷静な判断をしないといけないからだ。

 星来はどこに行ってしまったのだろうか。

 考えても考えても答えは出ない。

 ライラちゃんが星来の格好をしているということは、本当の星来はここにはいないということなのだろうか。

 ……わ、わからない。

 泣きそうになるのをぐっとこらえて、わたしは一歩一歩前に進んだ。