午前八時少し前。
『星来がライラを連れて、わが家の玄関前に到着』
ライラちゃんの電波を感じ取ったらしいアキちゃんの声に、なんだかんだですでに準備を終えていたわたしはドキッとしながらもスクールバックを手に取る。
「アキちゃん、ありがとう。行ってくるね」
『もう喧嘩しちゃだめだよ~』
のんきな声にしっかり頷いて、わたしは階下に降りる。
きっとドアの前には気まずそうに立つ星来の姿があるのだろう。
星来がここまで勇気を出してくれたのだ。ドアを開けた瞬間はわたしも勇気を出して、おはようとちゃんとあいさつしたい。
些細な出来事だった。
星来が好きだという松岡くんに対して日々送り続けているメッセージの文章を星来の『アムル』であるライラちゃんが考えているというから、そんなの星来の文章ではないじゃないかとぽろりと言ってしまったことによって、星来を怒らせてしまったのだった。
松岡くんは頭が良くて、何を考えているかわからない印象の人だけど、彼が気になるような話題を送ると、その時だけは返事が返ってくるのだという。
わたしの場合、絶対にアキちゃんは仲介ならぬ恋のキューピットには入ってくれないだろうし、ちょっとだけ羨ましいと思う気持ちもあったけど、すべての文面を星来自身が作っていないのだったら、そんなのライラちゃんと松岡くんのやりとりになってしまうんじゃないかって思ったのだ。
それでも星来の言い分としては、メッセージのやり取りはライラちゃんでも普段松岡くん本人と接しているのは自分だと言い張ったため、わたしは何も言えなくなり、そのまま微妙な空気のまま、昨日は別れることとなったのだ。
それこそ『ごめんね』って一言メッセージにすればよかったんだけど、こういう時はなかなかお互いに送りづらい。
「あ、春奈、おはよう!」
扉を開くと同時に、明るい星来の声が聞こえた。
「え……あ、お、おはよう……」
「なかなか出てきてくれないから、心配したよぉ」
「あ、うん……ごめんね」
謝るべくはそこではないと思いつつも待たせてしまったことを詫びると、星来は笑顔になって、行こ!とわたしの手を取った。
(え……)
謝るタイミングをすっかりなくしてしまったことと、てっきりばつが悪そうにしている星来が立っているものだと思っていたからあまりにも明るく接してくるその姿に驚いてしまった。……というよりも、ほんの少し、違和感があった。
「星来……あ、あの、ごめんね」
「ん? なにが?」
長いまつげがアーチを描くアーモンドのような瞳を大きく見開き、不思議そうな表情を浮かべる星来にこちらも同じように目を見開きたくなる。
なにがって、昨日はあんなに怒っていたではないか。
「う、ううん。迎えに来てくれてありがとう」
あえて気づかないふりをしてくれているのだったら合わせた方がいいのかもしれない。
わたしだってわざわざ嫌な雰囲気のままでいたいわけじゃない。
小学校からずっと仲良しの星来だ。
これからもずっと仲良くしていきたい。
星来の気遣いに感謝をして、これからは発言には気を付けようと自分自身に言い聞かせ、わたしははつらつとした星来の笑顔に笑みを返したのだった。
だから、気づいていなかった。
いつもは片時も外すことがなかったライラちゃんのキーホルダが星来のカバンについていなかったことに。
『星来がライラを連れて、わが家の玄関前に到着』
ライラちゃんの電波を感じ取ったらしいアキちゃんの声に、なんだかんだですでに準備を終えていたわたしはドキッとしながらもスクールバックを手に取る。
「アキちゃん、ありがとう。行ってくるね」
『もう喧嘩しちゃだめだよ~』
のんきな声にしっかり頷いて、わたしは階下に降りる。
きっとドアの前には気まずそうに立つ星来の姿があるのだろう。
星来がここまで勇気を出してくれたのだ。ドアを開けた瞬間はわたしも勇気を出して、おはようとちゃんとあいさつしたい。
些細な出来事だった。
星来が好きだという松岡くんに対して日々送り続けているメッセージの文章を星来の『アムル』であるライラちゃんが考えているというから、そんなの星来の文章ではないじゃないかとぽろりと言ってしまったことによって、星来を怒らせてしまったのだった。
松岡くんは頭が良くて、何を考えているかわからない印象の人だけど、彼が気になるような話題を送ると、その時だけは返事が返ってくるのだという。
わたしの場合、絶対にアキちゃんは仲介ならぬ恋のキューピットには入ってくれないだろうし、ちょっとだけ羨ましいと思う気持ちもあったけど、すべての文面を星来自身が作っていないのだったら、そんなのライラちゃんと松岡くんのやりとりになってしまうんじゃないかって思ったのだ。
それでも星来の言い分としては、メッセージのやり取りはライラちゃんでも普段松岡くん本人と接しているのは自分だと言い張ったため、わたしは何も言えなくなり、そのまま微妙な空気のまま、昨日は別れることとなったのだ。
それこそ『ごめんね』って一言メッセージにすればよかったんだけど、こういう時はなかなかお互いに送りづらい。
「あ、春奈、おはよう!」
扉を開くと同時に、明るい星来の声が聞こえた。
「え……あ、お、おはよう……」
「なかなか出てきてくれないから、心配したよぉ」
「あ、うん……ごめんね」
謝るべくはそこではないと思いつつも待たせてしまったことを詫びると、星来は笑顔になって、行こ!とわたしの手を取った。
(え……)
謝るタイミングをすっかりなくしてしまったことと、てっきりばつが悪そうにしている星来が立っているものだと思っていたからあまりにも明るく接してくるその姿に驚いてしまった。……というよりも、ほんの少し、違和感があった。
「星来……あ、あの、ごめんね」
「ん? なにが?」
長いまつげがアーチを描くアーモンドのような瞳を大きく見開き、不思議そうな表情を浮かべる星来にこちらも同じように目を見開きたくなる。
なにがって、昨日はあんなに怒っていたではないか。
「う、ううん。迎えに来てくれてありがとう」
あえて気づかないふりをしてくれているのだったら合わせた方がいいのかもしれない。
わたしだってわざわざ嫌な雰囲気のままでいたいわけじゃない。
小学校からずっと仲良しの星来だ。
これからもずっと仲良くしていきたい。
星来の気遣いに感謝をして、これからは発言には気を付けようと自分自身に言い聞かせ、わたしははつらつとした星来の笑顔に笑みを返したのだった。
だから、気づいていなかった。
いつもは片時も外すことがなかったライラちゃんのキーホルダが星来のカバンについていなかったことに。



