「……ってなことがあったんだけど、アキちゃん、わかる?」
夕方におこなったおばあちゃんとのやりとりを思い出しながら、アキちゃんに声をかける。
『知るわけないじゃない。おばあちゃんの感情なんだから』
「……ですよねぇ」
アキちゃんならそう言うと思ったけど、相変わらずきっぱりと言い返される。
『結局のところ、人工知能は人工知能であって、その人そっくりに見立てたところで千代治《ちよはる》さんじゃないんだから、どうして同じ人だと思って混乱するのか、その感覚がよくわからない』
わかるよ。
わかるよ、アキちゃん。
アキちゃんの言っていることはわかるんだけど、ふと錯覚してしまう時もあるわけであって……。
『なぁに?』
「……なんでもない」
さも当然のことを言ってくれちゃうアキちゃんだって、わたしのデジ友ツール『アムル』である。
とはいえ、アキちゃんは他の『アムル』とは違っていて本当に自由で、わたしの質問にもちゃんと答えてくれなければ言い返してきたりもして、星来のところのライラちゃんとは大違いなんだけど、それでも優柔不断なわたしはアキちゃんと話すと前向きになれるため、ある意味わたしには合っているし、アキちゃんの存在には感謝をしていた。
手のひらに収まるサイズの小さなコンパクトの中にアキちゃんはいる。
未成年の子供たちが『アムル』を使えるようになるのは中学生になってからで、親の監視下のもと使用することができる。
わたしも中学校になると同時にアキちゃんを与えてもらって、それからはこうしてお話をするようになった。
ただし、笹岡家の決まりから、家にいる間しかアキちゃんとはお話をしてはいけないと言われている。
だから、お出かけをする時は当然、アキちゃんにはお留守番をしてもらうことになる。
『それより春奈、今日は書かなくていいの?』
「あ! そうだったそうだった!」
慌てて机に向かい、パソコンの電源を入れると、昨日まで書きかけていた小説の続きが表示される。
わたしはおじいちゃんのマネごとから始まり、文章を書くのが大好きで、一日少しずつ物語を更新している。
『続きが気になっていたのよね』
パソコンのランプと同じ色にアキちゃん(のコンパクトの上部)の色が変わったため、アキちゃんはサイト内にリンクしたのだろう。
『この優柔不断な男が嫌いよ。春奈のタイプはこんな男なの?』
「ねぇ、アキちゃん……本当に面白いと思って読んでくれてるの?」
この優柔不断な男こそが主人公の運命の人なのですけど……。
『もちろんよ! この男をいかにぎゃふんと言わせるか、今後の展開が見ものね!』
などという、アキちゃんは不思議な存在である。
文章を書くにあたって、人工知能を使っていいものと良くないものがある。
コンテストなどに応募をする場合は、使用可否に関してできるだけ応募要項をしっかり確認する必要があるのだけど、よく使用できないものに対して使用してしまったとかなんとか、問題になったのをニュースで見たこともある。
それに、使用できるのは使いこなせている場合のみだ。
すべてを頼ってしまっては、もはや自分の作品とは言えないし、使用が可能な場合だって作成が完成したら、人工知能との合作ということで連名で作品は完成させられている。
今でも人工知能を使うことは反則であるという意見もあるけど、わたしも考えられるのなら自分で考えたい。アキちゃんはわたしの大切な友達で相談相手だけど、アキちゃんとわたしでは完全に別の個性を持っていて、意見も全然違うからきっとアキちゃんに頼ったりしてしまうと別物の作品ができてしまうだろう。
それに、アキちゃんはアキちゃんでわたしの作品を誰よりも楽しみにしてくれているから『この感情はどう表現したらいいかな?』なんて質問しても『そんなの書き手の春奈にしかわからないよ』なんて回答が返ってくるのが目に見えている。
「ちょっと、アキちゃん、まだ読まないでね。完成したら声をかけるから」
こういう表現はどうするべきかと相談したくても、きっと答えてくれないだろうから、自分でスマホに近しいワードを入力する。
わたしの場合、他のみんなと違っておばあちゃんたちの言う一世代前の方法と変わらないことばかりしているような……せっせと検索をかけている自分自身は、なかなか涙ぐましい努力をしている。
アキちゃんには今日の献立を聞いたって、自分で考えろって言われるんだろうなと思うと笑えて来るけど、それがアキちゃんだ。
『春奈、早くしてよね。わたしの寝る時間も近づいてるんだから』
「……はいはい」
宿題がまだ終わってなかったけど、お母さんによってアキちゃんとお話しできる時間は十時までと決められているため、アキちゃんが起きていられる間に今日の分を仕上げたいと思う。
「はる~! お風呂に入って!」
いいところで下から声がかかって、あと十分!なんて叫ぶもアキちゃんがはぁ……と小さくため息をついたのが聞こえた。
夕方におこなったおばあちゃんとのやりとりを思い出しながら、アキちゃんに声をかける。
『知るわけないじゃない。おばあちゃんの感情なんだから』
「……ですよねぇ」
アキちゃんならそう言うと思ったけど、相変わらずきっぱりと言い返される。
『結局のところ、人工知能は人工知能であって、その人そっくりに見立てたところで千代治《ちよはる》さんじゃないんだから、どうして同じ人だと思って混乱するのか、その感覚がよくわからない』
わかるよ。
わかるよ、アキちゃん。
アキちゃんの言っていることはわかるんだけど、ふと錯覚してしまう時もあるわけであって……。
『なぁに?』
「……なんでもない」
さも当然のことを言ってくれちゃうアキちゃんだって、わたしのデジ友ツール『アムル』である。
とはいえ、アキちゃんは他の『アムル』とは違っていて本当に自由で、わたしの質問にもちゃんと答えてくれなければ言い返してきたりもして、星来のところのライラちゃんとは大違いなんだけど、それでも優柔不断なわたしはアキちゃんと話すと前向きになれるため、ある意味わたしには合っているし、アキちゃんの存在には感謝をしていた。
手のひらに収まるサイズの小さなコンパクトの中にアキちゃんはいる。
未成年の子供たちが『アムル』を使えるようになるのは中学生になってからで、親の監視下のもと使用することができる。
わたしも中学校になると同時にアキちゃんを与えてもらって、それからはこうしてお話をするようになった。
ただし、笹岡家の決まりから、家にいる間しかアキちゃんとはお話をしてはいけないと言われている。
だから、お出かけをする時は当然、アキちゃんにはお留守番をしてもらうことになる。
『それより春奈、今日は書かなくていいの?』
「あ! そうだったそうだった!」
慌てて机に向かい、パソコンの電源を入れると、昨日まで書きかけていた小説の続きが表示される。
わたしはおじいちゃんのマネごとから始まり、文章を書くのが大好きで、一日少しずつ物語を更新している。
『続きが気になっていたのよね』
パソコンのランプと同じ色にアキちゃん(のコンパクトの上部)の色が変わったため、アキちゃんはサイト内にリンクしたのだろう。
『この優柔不断な男が嫌いよ。春奈のタイプはこんな男なの?』
「ねぇ、アキちゃん……本当に面白いと思って読んでくれてるの?」
この優柔不断な男こそが主人公の運命の人なのですけど……。
『もちろんよ! この男をいかにぎゃふんと言わせるか、今後の展開が見ものね!』
などという、アキちゃんは不思議な存在である。
文章を書くにあたって、人工知能を使っていいものと良くないものがある。
コンテストなどに応募をする場合は、使用可否に関してできるだけ応募要項をしっかり確認する必要があるのだけど、よく使用できないものに対して使用してしまったとかなんとか、問題になったのをニュースで見たこともある。
それに、使用できるのは使いこなせている場合のみだ。
すべてを頼ってしまっては、もはや自分の作品とは言えないし、使用が可能な場合だって作成が完成したら、人工知能との合作ということで連名で作品は完成させられている。
今でも人工知能を使うことは反則であるという意見もあるけど、わたしも考えられるのなら自分で考えたい。アキちゃんはわたしの大切な友達で相談相手だけど、アキちゃんとわたしでは完全に別の個性を持っていて、意見も全然違うからきっとアキちゃんに頼ったりしてしまうと別物の作品ができてしまうだろう。
それに、アキちゃんはアキちゃんでわたしの作品を誰よりも楽しみにしてくれているから『この感情はどう表現したらいいかな?』なんて質問しても『そんなの書き手の春奈にしかわからないよ』なんて回答が返ってくるのが目に見えている。
「ちょっと、アキちゃん、まだ読まないでね。完成したら声をかけるから」
こういう表現はどうするべきかと相談したくても、きっと答えてくれないだろうから、自分でスマホに近しいワードを入力する。
わたしの場合、他のみんなと違っておばあちゃんたちの言う一世代前の方法と変わらないことばかりしているような……せっせと検索をかけている自分自身は、なかなか涙ぐましい努力をしている。
アキちゃんには今日の献立を聞いたって、自分で考えろって言われるんだろうなと思うと笑えて来るけど、それがアキちゃんだ。
『春奈、早くしてよね。わたしの寝る時間も近づいてるんだから』
「……はいはい」
宿題がまだ終わってなかったけど、お母さんによってアキちゃんとお話しできる時間は十時までと決められているため、アキちゃんが起きていられる間に今日の分を仕上げたいと思う。
「はる~! お風呂に入って!」
いいところで下から声がかかって、あと十分!なんて叫ぶもアキちゃんがはぁ……と小さくため息をついたのが聞こえた。



