おばあちゃんのおうちでは、ありとあらゆることをお願いするたびに、おじいちゃんの声が反応して対応してくれる。

 これはデジ友ツール『アムル』といって、基本的にわたしたちの日常生活を手助けしてくれる人工知能システムのことだ。

 現代社会ではどこの家庭でも取り入れられていると言われている。

 『アムル』の種類は様々で、家電量販店でも手軽に手に入れることもできるし、おうちを建てる際にも家ごと取り付けることも可能らしい。

 わたしのおうちには生まれたときから『アムル』が取り付けられていたし、使用許可年齢に達してからは、自身の『アムル』も手に入れた。

 『アムル』は身の回りのお世話など無理難題を言わない限りはお願いした通りに忠実に対応してくれる。

 声だって見た目だって、変更したいものは初期設定の段階ですべて希望の通りに変えてくれる。

 部屋を開けてほしいとお願いすると開けてくれるし、メッセージを送ってほしい、音楽を流してほしい、調べ物をしてほしい……語りかけるとその声は快く応じてくれた。

 もちろん、アナログ派であれやこれやと手書きを好んで物書きをしていたおじいちゃんがこんなことをできるはずもないことは知っている。

 でも声がおじいちゃんそのもので、とっても懐かしく感じられるため、ときどき混乱してしまうこともあるのは事実である。

 だからこそ、毎日一緒に暮らしているおばあちゃんはなおさらそんな気持ちになるのだろうと思う。

 おばあちゃんはずっとそんな心のないものに頼りたくないと言っていた。

 でも、足腰が弱り始めて生活がしづらくなったこともあり、お父さんがおばあちゃんを説得してようやく『アムル』を取り入れるようになった。

 少しでも寂しくないようにとおじいちゃんの声に合わせて設定をした『アムル』に対して、最初は気持ち悪いと言っていたおばあちゃんだったけど、最近はずいぶん馴染んだようで、ちょこちょこお願いしたり、こっそり話しかけているのも知っている。

 おばあちゃんのおうちの『アムル』は実態を持たないけど、家事態にシステムがほどこされているため、どこにいてもおばあちゃんの声には反応してくれるし、家族が笑いかければお仏壇の写真だって動き出す。

 生まれてからずっと当たり前に共存をしている『アムル』だけど、おばあちゃんが若いころはこんなシステムはなかったという。

 折り曲げ式だった携帯電話がスマートフォンという今の形に近いスタイル(今よりもう少し大きいそうだけど)に変わって、メッセージツールはそこからとても進化を遂げ、発達したらしい。

『便利になればいいってものじゃない』

 とおじいちゃんはよくこぼしていたけど、『アムル』を取り込むようになって圧倒的に生活面での効率が上がって時間短縮ができるようになったとおばあちゃんは言っていた。

 お母さんもよくどこかしらに向かって今日の献立の相談をしているけど、かつてはスマートフォンを操作して検索をしないと調べることはできなかったらしい。

 実際、わたしも『アムル』がおうちにない状態の生活なんて想像がつかなかった。