「ねぇ、アキちゃん」

 おかえり、と言われる前に、わたしは彼女に泣きつく。

『なぁに? どうしたの?』

 なんて言うアキちゃんは、すべてがお見通しなのだろうけど、どうでもよさそうな声を出す。

「星来《せいら》と喧嘩しちゃった」

『へぇ……』

 些細なことだった。

 些細なことで、親友の星来を怒らせてしまって、それで謝るに謝れなくなって、お互い無言になった状態でそのまま帰宅をしてきてしまったのだった。

「ア、アキちゃん、どうしたらいいと思う?」

 アキちゃんはわたしの友達だ。

 ううん。それよりももっと深い。

 心友と言ったほうが近いのかもしれない。

 学校が終わるといつも一緒にいるし、ついついアキちゃんには何でも話してしまう。

 学校であったことも、友達たちのことも、おうちでのことも、もやもやしていることも、好きな人のことまですべて。

 きっと、一番一番わたしのことを理解してくれている。

 ……はずなんだけど。

『そんなのわたしの知ったこっちゃない』

 ほら、言うと思った。

 ぴしゃっと言い切るアキちゃんにガクッとする。

「ひ、ひどい、アキちゃん……わたしは本当に困ってるのに」

『どうせ明日になったら、また気まずそうに星来が迎えに来るはずだよ』

「……そうかもしれないけど」

 いつものことだ。

 ちょっとした行き違いがあった日、ばつが悪そうに朝から星来が家の前に立っている。

『来なかったら春奈《はるな》が星来の家に行くこと。いつもいつも、待ってるだけじゃなにも変わらないから』

 アキちゃんはとてもさっぱりした性格である。

 あまり物事を深く考えないし、わたしが一生懸命悩んでいることだって、アキちゃんにしたらまったくたいしたことないことで、なんでそんなことに悩む必要がある?とスパッと切りすて、正論だけを述べて笑うのだ。

 だからこそ、なんとなくわたしも自分の悩みがいかにちっぽけなものであるか考えさせられることがある。

 アキちゃんの回答には迷いがない。

 そして、なんでもお見通しと思えるところがところどころにあった。

 厳しいところはもちろんあるけど、頼りになって、お姉ちゃんのような存在でもあった。

 わたしは、そんなアキちゃんが大好きだった。