ありえない、ありえない、マジありえない。
横浜コスプレサミットが終わった次の月曜日。私は教室の机につっぷして延々とひとりごとを繰り返していた。もうじき4時間目の授業が始まろうというのに、私の頭の中は黒川ひかりのことでいっぱいだった。
ありえない、ありえない。黒川が黒川ひかりってどういうことだよ。私、あいつに向かって「ファンです!」って叫んじゃったんだけど。「一緒に写真を撮ってほしい」なんて言っちゃったんだけど。恥ずかしすぎて死ぬ!
「愛美ぃ、どうしたの? 今日、ずっと様子おかしくなぁい?」
ギャル仲間の花音が、心配そうな表情で話しかけてきた。正直にすべてを話すこともためらわれ、私はあえて曖昧な返事をした。
「……ちょっと日曜日にショックな出来事があってさ」
「ふぅん。飼い猫が死んだとか?」
「いや、そもそも猫は飼ってねぇけど」
「じゃあクワガタ?」
「どこの小学生男子だよ」
鈴がくだらない会話を遮った。
「よくわかんないけど元気出しなって。ほら、新商品のグミをあげよう。酸っぱいぞー」
そう言って、悪戯な表情で私の口にグミを押し込んできた。口いっぱいにレモンの酸味が広がり、無意識に顔をしかめてしまう。
鈴と花音が机のまわりで談笑を始めたので、私は口の中でころころとグミを転がした。グミのおかげかどうかはわからないが、不思議と気分は上向いてきた。そして気分が上向くと、黒川に対する怒りの気持ちがふつふつと湧き上がってくる。
なんで私ばっかりこんな悩んでんの? 別に私が恥ずかしがる必要とかなくね? だって黒川と黒川ひかりが同一人物だって知らなかったし。むしろ恥ずかしがるのは黒川の方だろ。男なのに女キャラのコスプレをして、SNS上でちやほやされて喜んでるなんてさぁ。
そこまで考えて、とある可能性に行き着いた。
……あれ、ちょっと待てよ。ひょっとして私、黒川の弱みを握ったんじゃね?
SNSの投稿を見る限り、黒川は自身の性別を明かしていなかった。投稿文も女性らしさを意識しているようだから、SNS上では女性レイヤーとして活動していきたいのだろう。となれば正体を知られてしまったことは黒川にとってかなりの痛手なわけで。
「……」
私はグミを丸呑みにしてゆらりと立ち上がった。一時前とはうってかわって、私の心は黒川に対する復讐心で満ちあふれていた。
待ってろよ黒川ぁ。私に恥ずかしい思いをさせたこと、たっぷりと後悔させてやろうじゃねぇの。
◇
黒川に対する復讐心を燃やすうちに4時間目の授業が終わった。昼食時間をかねた昼休み。クラスメイトのうち半数ほどは弁当箱を開き、残りの半数は教室を出て購買へと向かう。
どうやら黒川も購買に向かうようで、財布を制服のポケットにつっこんだところだった。私はそんな黒川に歩み寄り、腰に手をあてて堂々と言い放った。
「黒川ぁ。購買に行くなら飲み物、買ってきてくんない?」
ピン、と親指で100円玉を弾いた。宙を舞った100円玉は、小さな弧を描いて黒川の机の真ん中に落ちる。黒川はその100円玉を怪訝な面持ちで見下ろしていた。
「炭酸じゃなければなんでもいーや。よろしくぅー」
私はわざとらしい笑顔を浮かべ、目線だけで黒川を脅した。実は男だってことSNS上でバラされたくないだろ? だったら大人しく言うこと聞けよ、と。
黒川はしばらくのあいだ私の顔を見つめていた。長い前髪と大きなマスクに隠されて表情はよくわからない。しかし目と眉の動きからは、私に対する嫌悪感がひしひしと伝わってきた。
嫌われようが罵られようが知ったことかよ。黒川に好かれようが嫌われようが、私の人生には何の影響もないっつーの。
そうした時間がいくらか過ぎ、やがて黒川は溜息を零して教室から出て行った。右手には私が渡した100円玉を握りしめて。弁当箱を抱えた鈴と花音が、ひょいと私の後ろに顔を出した。
「なんで黒川のことパシってんの?」
鈴が不可解そうな表情で尋ねてきたので、私はにやりと笑って答えた。
「ちょっとねー。黒川の弱みを握っちゃったもんで」
「へー。でもお金は払うんだ?」
「カツアゲはさすがにまずいだろ。こういうのは教師に目をつけられない程度にやるのがよし」
「カツアゲしなくても目はつけられてると思うけど」
「うるせぇわ」
私は、鈴と花音と一緒にお弁当を食べながら黒川の帰りを待った。黒川が購買で買った飲み物を私のところの持ってくる姿を想像すると、それだけで気分が晴れた。黒川相手に「ファンです!」と叫んだ羞恥心も忘れられそうだ。
……いや、やっぱりそんなに簡単には忘れらんねぇわ。もう4、5回パシってやろ。
「……黒川、遅いねぇ」
小さなお弁当箱をつつきながら花音が言った。私は教室の壁かけ時計を見上げた。確かに遅い。黒川に飲み物を買ってこいと命令してからもう20分以上が経っている。いくら購買が混んでいるとはいえ、こんなに時間がかかるものだろうか?
「あ、黒川だ」
窓の外を見て声をあげたのは鈴だった。私と花音は立ち上がって鈴の目線の先を見た。
そこには確かに黒川の姿があった。校庭の木の下にあるベンチに座って、呑気にパンを食べている。周囲を他の生徒の姿はなく、一人気ままな昼食タイムという印象だ。
「……普通にパン、食べてるねぇ」
「飲み物も持ってるね……購買のりんごジュースかな」
口々にコメントしたあと、鈴と花音は同時に吹き出した。
「愛美、全然パシれてないじゃん。弱みを握ったんじゃなかったのぉ?」
「教室に戻ってくる気配、なさそうだよ。弱みを握るどころか馬鹿にされてんじゃないの?」
鈴と花音の忍び笑いを聞きながら、私はふるふると拳を震わせた。引いたはずの怒りがまなふつふつと湧き上がってくる。
「っ……何でアイツは素直にパシられねぇんだよ!」
食べかけのお弁当に乱暴にふたをして、私は怒り心頭で教室を飛び出した。
◇
「おいこら黒川ぁ! こんなところで何してんだ!」
小走りで校庭へとやってきた私は、黒川の前に仁王立ちして叫んだ。そのときの黒川はといえば、購買の焼きそばパンを食べ終え林檎ジュースに口をつけたところだ。私に飲み物を買ってこいと命令されたことも、現在進行形で罵倒されていることも、まったくと言っていいほど気にかけた様子がない。
「……何って、普通にメシだけど」
いつもと同じ消え入るような声で黒川は答えた。とはいえ今の黒川はマスクをつけていないから、いつもよりはいくらか聞き取りやすかった。
「普通にメシぃ⁉ 購買で飲み物を買ってこいって言っただろーが! つーかその林檎ジュース、ひょっとして私の100円で買ったんじゃねぇだろうな⁉」
「……あ」
黒川はわざとらしく驚いた顔をして、私の方に飲みかけの林檎ジュースを差し出した。
本当に私の100円で買ったのかよ! しかもほとんど残ってねぇじゃん、ふざけんな!
私は残り少なくなった林檎ジュースのパックをぐしゃりと握り潰し、低い声で黒川に語りかけた。
「アンタさぁ……私にそういう態度とっていいと思ってるわけ? 黒川ひかりが実は男だってこと、SNS上で拡散してやろうか?」
無言の圧力では埒があかないことはわかっていたので、今度はストレートに脅してみた。自分でも最低な奴だと思う。でも私は、何としても黒川の口から「悪かった」という言葉を聞きたかった。
「はー……」
黒川は大げさな溜息を吐いた。それから長い前髪を掻き上げた。切れ長の瞳が、強い光をたたえて私のことを見ていた。
「お前は何様のつもりだよ。拡散したいなら勝手にしろや、痛くも痒くもねぇんだよボケ」
……おん?
「男だってこと、隠してはいねぇんだよ。古参のファンは普通に知ってるっつーの。にわか情報で人のこと脅そうとしてんじゃねぇぞ、死ね」
黒川の声はもう消え入るような調子ではなく、はっきりとよく私の耳に届いた。黒川ひかりの口から出たのと同じ、耳に心地いいハスキーボイス。私はしばしのあいだ思考が停止した。
……え、黒川ってこういうキャラだっけ? いつも教室の隅っこで本を読んだりスマホをいじったりしてるタイプじゃなかった? 授業中の質問にもイライラするくらい小さい声で答えてるよな? なんでいきなり声優ばりのイイ声で私のこと罵倒してんの?
「つーかお前の方こそ、そんな態度でいいわけ? 俺のファンなんだろ? 五体投地で土下座でもしてくれるっつぅんなら、ツーショット撮ってやってもいいけどな。ハッ」
「な……なん、なぁぁ……!」
黒川の罵倒がなめらかすぎて、つい猫のような声が出てしまった。いやこの場合、猫のようなのは黒川の方だ。入学してからずっと、クラスメイトの前で猫をかぶっていたのだから。
私が言葉をなくし立ち尽くす間に、黒川はさっさとどこかへ行ってしまった。
しばらくしてから私が教室へと戻ると、花音と鈴が興味津々で話しかけてきた。
「愛美ぃ。黒川、何て言ってたぁ?」
「言い合ってるみたいだったけど手は出してないよね?」
まさか黒川にいいようにあしらわれたとは口が裂けても言えず、私は子どものように地団駄を踏んだ。
「……あー! くっそ腹立つ! あの猫かぶり野郎!!」
横浜コスプレサミットが終わった次の月曜日。私は教室の机につっぷして延々とひとりごとを繰り返していた。もうじき4時間目の授業が始まろうというのに、私の頭の中は黒川ひかりのことでいっぱいだった。
ありえない、ありえない。黒川が黒川ひかりってどういうことだよ。私、あいつに向かって「ファンです!」って叫んじゃったんだけど。「一緒に写真を撮ってほしい」なんて言っちゃったんだけど。恥ずかしすぎて死ぬ!
「愛美ぃ、どうしたの? 今日、ずっと様子おかしくなぁい?」
ギャル仲間の花音が、心配そうな表情で話しかけてきた。正直にすべてを話すこともためらわれ、私はあえて曖昧な返事をした。
「……ちょっと日曜日にショックな出来事があってさ」
「ふぅん。飼い猫が死んだとか?」
「いや、そもそも猫は飼ってねぇけど」
「じゃあクワガタ?」
「どこの小学生男子だよ」
鈴がくだらない会話を遮った。
「よくわかんないけど元気出しなって。ほら、新商品のグミをあげよう。酸っぱいぞー」
そう言って、悪戯な表情で私の口にグミを押し込んできた。口いっぱいにレモンの酸味が広がり、無意識に顔をしかめてしまう。
鈴と花音が机のまわりで談笑を始めたので、私は口の中でころころとグミを転がした。グミのおかげかどうかはわからないが、不思議と気分は上向いてきた。そして気分が上向くと、黒川に対する怒りの気持ちがふつふつと湧き上がってくる。
なんで私ばっかりこんな悩んでんの? 別に私が恥ずかしがる必要とかなくね? だって黒川と黒川ひかりが同一人物だって知らなかったし。むしろ恥ずかしがるのは黒川の方だろ。男なのに女キャラのコスプレをして、SNS上でちやほやされて喜んでるなんてさぁ。
そこまで考えて、とある可能性に行き着いた。
……あれ、ちょっと待てよ。ひょっとして私、黒川の弱みを握ったんじゃね?
SNSの投稿を見る限り、黒川は自身の性別を明かしていなかった。投稿文も女性らしさを意識しているようだから、SNS上では女性レイヤーとして活動していきたいのだろう。となれば正体を知られてしまったことは黒川にとってかなりの痛手なわけで。
「……」
私はグミを丸呑みにしてゆらりと立ち上がった。一時前とはうってかわって、私の心は黒川に対する復讐心で満ちあふれていた。
待ってろよ黒川ぁ。私に恥ずかしい思いをさせたこと、たっぷりと後悔させてやろうじゃねぇの。
◇
黒川に対する復讐心を燃やすうちに4時間目の授業が終わった。昼食時間をかねた昼休み。クラスメイトのうち半数ほどは弁当箱を開き、残りの半数は教室を出て購買へと向かう。
どうやら黒川も購買に向かうようで、財布を制服のポケットにつっこんだところだった。私はそんな黒川に歩み寄り、腰に手をあてて堂々と言い放った。
「黒川ぁ。購買に行くなら飲み物、買ってきてくんない?」
ピン、と親指で100円玉を弾いた。宙を舞った100円玉は、小さな弧を描いて黒川の机の真ん中に落ちる。黒川はその100円玉を怪訝な面持ちで見下ろしていた。
「炭酸じゃなければなんでもいーや。よろしくぅー」
私はわざとらしい笑顔を浮かべ、目線だけで黒川を脅した。実は男だってことSNS上でバラされたくないだろ? だったら大人しく言うこと聞けよ、と。
黒川はしばらくのあいだ私の顔を見つめていた。長い前髪と大きなマスクに隠されて表情はよくわからない。しかし目と眉の動きからは、私に対する嫌悪感がひしひしと伝わってきた。
嫌われようが罵られようが知ったことかよ。黒川に好かれようが嫌われようが、私の人生には何の影響もないっつーの。
そうした時間がいくらか過ぎ、やがて黒川は溜息を零して教室から出て行った。右手には私が渡した100円玉を握りしめて。弁当箱を抱えた鈴と花音が、ひょいと私の後ろに顔を出した。
「なんで黒川のことパシってんの?」
鈴が不可解そうな表情で尋ねてきたので、私はにやりと笑って答えた。
「ちょっとねー。黒川の弱みを握っちゃったもんで」
「へー。でもお金は払うんだ?」
「カツアゲはさすがにまずいだろ。こういうのは教師に目をつけられない程度にやるのがよし」
「カツアゲしなくても目はつけられてると思うけど」
「うるせぇわ」
私は、鈴と花音と一緒にお弁当を食べながら黒川の帰りを待った。黒川が購買で買った飲み物を私のところの持ってくる姿を想像すると、それだけで気分が晴れた。黒川相手に「ファンです!」と叫んだ羞恥心も忘れられそうだ。
……いや、やっぱりそんなに簡単には忘れらんねぇわ。もう4、5回パシってやろ。
「……黒川、遅いねぇ」
小さなお弁当箱をつつきながら花音が言った。私は教室の壁かけ時計を見上げた。確かに遅い。黒川に飲み物を買ってこいと命令してからもう20分以上が経っている。いくら購買が混んでいるとはいえ、こんなに時間がかかるものだろうか?
「あ、黒川だ」
窓の外を見て声をあげたのは鈴だった。私と花音は立ち上がって鈴の目線の先を見た。
そこには確かに黒川の姿があった。校庭の木の下にあるベンチに座って、呑気にパンを食べている。周囲を他の生徒の姿はなく、一人気ままな昼食タイムという印象だ。
「……普通にパン、食べてるねぇ」
「飲み物も持ってるね……購買のりんごジュースかな」
口々にコメントしたあと、鈴と花音は同時に吹き出した。
「愛美、全然パシれてないじゃん。弱みを握ったんじゃなかったのぉ?」
「教室に戻ってくる気配、なさそうだよ。弱みを握るどころか馬鹿にされてんじゃないの?」
鈴と花音の忍び笑いを聞きながら、私はふるふると拳を震わせた。引いたはずの怒りがまなふつふつと湧き上がってくる。
「っ……何でアイツは素直にパシられねぇんだよ!」
食べかけのお弁当に乱暴にふたをして、私は怒り心頭で教室を飛び出した。
◇
「おいこら黒川ぁ! こんなところで何してんだ!」
小走りで校庭へとやってきた私は、黒川の前に仁王立ちして叫んだ。そのときの黒川はといえば、購買の焼きそばパンを食べ終え林檎ジュースに口をつけたところだ。私に飲み物を買ってこいと命令されたことも、現在進行形で罵倒されていることも、まったくと言っていいほど気にかけた様子がない。
「……何って、普通にメシだけど」
いつもと同じ消え入るような声で黒川は答えた。とはいえ今の黒川はマスクをつけていないから、いつもよりはいくらか聞き取りやすかった。
「普通にメシぃ⁉ 購買で飲み物を買ってこいって言っただろーが! つーかその林檎ジュース、ひょっとして私の100円で買ったんじゃねぇだろうな⁉」
「……あ」
黒川はわざとらしく驚いた顔をして、私の方に飲みかけの林檎ジュースを差し出した。
本当に私の100円で買ったのかよ! しかもほとんど残ってねぇじゃん、ふざけんな!
私は残り少なくなった林檎ジュースのパックをぐしゃりと握り潰し、低い声で黒川に語りかけた。
「アンタさぁ……私にそういう態度とっていいと思ってるわけ? 黒川ひかりが実は男だってこと、SNS上で拡散してやろうか?」
無言の圧力では埒があかないことはわかっていたので、今度はストレートに脅してみた。自分でも最低な奴だと思う。でも私は、何としても黒川の口から「悪かった」という言葉を聞きたかった。
「はー……」
黒川は大げさな溜息を吐いた。それから長い前髪を掻き上げた。切れ長の瞳が、強い光をたたえて私のことを見ていた。
「お前は何様のつもりだよ。拡散したいなら勝手にしろや、痛くも痒くもねぇんだよボケ」
……おん?
「男だってこと、隠してはいねぇんだよ。古参のファンは普通に知ってるっつーの。にわか情報で人のこと脅そうとしてんじゃねぇぞ、死ね」
黒川の声はもう消え入るような調子ではなく、はっきりとよく私の耳に届いた。黒川ひかりの口から出たのと同じ、耳に心地いいハスキーボイス。私はしばしのあいだ思考が停止した。
……え、黒川ってこういうキャラだっけ? いつも教室の隅っこで本を読んだりスマホをいじったりしてるタイプじゃなかった? 授業中の質問にもイライラするくらい小さい声で答えてるよな? なんでいきなり声優ばりのイイ声で私のこと罵倒してんの?
「つーかお前の方こそ、そんな態度でいいわけ? 俺のファンなんだろ? 五体投地で土下座でもしてくれるっつぅんなら、ツーショット撮ってやってもいいけどな。ハッ」
「な……なん、なぁぁ……!」
黒川の罵倒がなめらかすぎて、つい猫のような声が出てしまった。いやこの場合、猫のようなのは黒川の方だ。入学してからずっと、クラスメイトの前で猫をかぶっていたのだから。
私が言葉をなくし立ち尽くす間に、黒川はさっさとどこかへ行ってしまった。
しばらくしてから私が教室へと戻ると、花音と鈴が興味津々で話しかけてきた。
「愛美ぃ。黒川、何て言ってたぁ?」
「言い合ってるみたいだったけど手は出してないよね?」
まさか黒川にいいようにあしらわれたとは口が裂けても言えず、私は子どものように地団駄を踏んだ。
「……あー! くっそ腹立つ! あの猫かぶり野郎!!」



