小学生のころは性別なんて関係なく、みんな仲が良かったと思う。
中学生になり、私は親友と呼ぶにふさわしい人ができた。入学して最初に隣の席になった男子で、名前は心音。
大きな丸い瞳と可愛らしい薄い唇。体は細くすらりとしていて、つやつやの白い肌が綺麗だった。心音は幼いころから、よく女の子に間違えられていたらしい。学ランを着ていなければ、私も勘違いをしたかもしれない。
2人ともゲームやアニメが好きで、偶然同じ陸上部へ入部し、とても気が合った。充実した毎日で、学校へ行くのが楽しくて仕方なかった。
だから、「付き合ってほしい」と言われた時は驚いた。心音と私の間に流れている空気は、そんな色っぽいものではなかったから。
でも私は心音が好きだった。だから深く考えずに、「いいよ」と返事をした。
それからしばらく、今まで通りの楽しい毎日が続く。本当は少し身構えていたのだけれど、「付き合っている」からといって、特別なことをする必要はないのだと安心した。
だけど、事件は起こる。
「心音ー! まだ補習終わらないの?」
部活途中、トイレのついでに教室を覗く。ぐったりした顔の心音が、誰もいない教室で一人取り残されていた。
「さっき終わった。俺が課題の提出最後……やばい。疲れた」
「そうなの? かわいそー」
私はわざとらしく眉を下げた。
「うざっ。彼女だったらもっと彼氏のこと慰めてよ」
「えー?」
心音は唇を尖らせ拗ねたような顔をしている。
私は座っている彼の頭をぽんぽんと撫で、「よしよし。頑張ったねぇ、偉かったねぇ」と、小さな子をあやすような態度をとった。きっと、すぐに「子ども扱いすんな!」とつっこみが飛んでくるはずだ。
それにしても、心音の髪は想像していたより柔らかく、ふんわりとした手触りだ。私のお気に入りのブランケットみたいで気持ちがいい。
「あれ? 心音?」
しばらくわしゃわしゃと触っていても、反応がない。
「……り」
心音は小さく呟き、頭を撫でる私の手を掴んで立ち上がった。
「え? なに?」
「ひより」
少し掠れたその声は、耳をこらさないと放課後の音に掻き消されそうだ。
初めて見る熱を持った瞳に、ただ事ではない状況なのだと思い知る。
心音が、一歩私に近づく。
2人の距離が、ゼロになる。
あ、と思った瞬間、心音の長い睫毛が見えた。
唇にぶにっとした柔らかい感触と、初めて感じる他人のじっとりとした体温、生ぬるい空気。
なんだ、これ。
「ふ……」
どちらのものかわからない、漏れた息が脳内に響く。
怖い――。
気がついたら、私は力いっぱい心音を突き飛ばしていた。
「う」と呻き声がし、目線の先の心音は呆然と立ち尽くしていた。
中学生になり、私は親友と呼ぶにふさわしい人ができた。入学して最初に隣の席になった男子で、名前は心音。
大きな丸い瞳と可愛らしい薄い唇。体は細くすらりとしていて、つやつやの白い肌が綺麗だった。心音は幼いころから、よく女の子に間違えられていたらしい。学ランを着ていなければ、私も勘違いをしたかもしれない。
2人ともゲームやアニメが好きで、偶然同じ陸上部へ入部し、とても気が合った。充実した毎日で、学校へ行くのが楽しくて仕方なかった。
だから、「付き合ってほしい」と言われた時は驚いた。心音と私の間に流れている空気は、そんな色っぽいものではなかったから。
でも私は心音が好きだった。だから深く考えずに、「いいよ」と返事をした。
それからしばらく、今まで通りの楽しい毎日が続く。本当は少し身構えていたのだけれど、「付き合っている」からといって、特別なことをする必要はないのだと安心した。
だけど、事件は起こる。
「心音ー! まだ補習終わらないの?」
部活途中、トイレのついでに教室を覗く。ぐったりした顔の心音が、誰もいない教室で一人取り残されていた。
「さっき終わった。俺が課題の提出最後……やばい。疲れた」
「そうなの? かわいそー」
私はわざとらしく眉を下げた。
「うざっ。彼女だったらもっと彼氏のこと慰めてよ」
「えー?」
心音は唇を尖らせ拗ねたような顔をしている。
私は座っている彼の頭をぽんぽんと撫で、「よしよし。頑張ったねぇ、偉かったねぇ」と、小さな子をあやすような態度をとった。きっと、すぐに「子ども扱いすんな!」とつっこみが飛んでくるはずだ。
それにしても、心音の髪は想像していたより柔らかく、ふんわりとした手触りだ。私のお気に入りのブランケットみたいで気持ちがいい。
「あれ? 心音?」
しばらくわしゃわしゃと触っていても、反応がない。
「……り」
心音は小さく呟き、頭を撫でる私の手を掴んで立ち上がった。
「え? なに?」
「ひより」
少し掠れたその声は、耳をこらさないと放課後の音に掻き消されそうだ。
初めて見る熱を持った瞳に、ただ事ではない状況なのだと思い知る。
心音が、一歩私に近づく。
2人の距離が、ゼロになる。
あ、と思った瞬間、心音の長い睫毛が見えた。
唇にぶにっとした柔らかい感触と、初めて感じる他人のじっとりとした体温、生ぬるい空気。
なんだ、これ。
「ふ……」
どちらのものかわからない、漏れた息が脳内に響く。
怖い――。
気がついたら、私は力いっぱい心音を突き飛ばしていた。
「う」と呻き声がし、目線の先の心音は呆然と立ち尽くしていた。
