淡い光の中に、ひとつ輝くものがあった。
それはまるで、僕だけを見ているようで不思議だった。
その輝きは衰えることなく、僕に向かって近づいてきた。
輝きの元は、学年で一番の美少女・辻岡七瀬(つじおか・ななせ)だった。

彼女は、一言でいうと儚い。
近づいたら今にも消えてしまいそうに儚い。とにかく儚い。
清楚で、落ち着いていて、時折見せるあの笑顔。彼女の存在そのものが儚いのかもしれない。
彼女は決して誰かと戯れることなく、静かに過ごしている。
僕とは接点がほとんどないと言っていいくらいの関係だ。それなのに、彼女は。
僕とは程遠い距離である彼女は、思ってもみないことを僕に告げた。



「私を好きになってくれない？」



と。



訳の分からず、返す言葉が見つからなかった。
挙げ句の果てに僕は、何故かこう答えてしまった。



「はい。」



と。



彼女はどうして僕に言ったのか、検討もつかない。
僕とは話したこともないのに、係や委員会が同じな訳でもない。ただ、不思議でならなかった。
彼女は少し微笑んで、自分の席へと戻っていった。その時は、からかわれただけ、そう思っていた。
でも、彼女はからかっているようには見えない。
いつも通り、誰とも戯れずひとりで淡々と過ごす彼女。これがきっかけで、僕は彼女のことが気になるようになった。

もしも、僕が本当に好きになってしまったら。
そんなことはあるわけがないと思いつつも、そのことに自信を持てなくなった。だって、その日から彼女が頭から離れなくなったから。
あの儚い姿、眩しいにも程がある愛嬌のある笑顔。全てが離れない。
本当に、好きになってしまうのだろうか。


僕にあの言葉を告げて以降、彼女が僕に話しかけることはなかった。