星の宮に行くには、一度孤児院を出なければならない。私たちは門番の騎士様に会いに行く。
「こんばんは、騎士様。わたくしたち、星の宮に行きたいのですけれど、今から可能でしょうか?」
スミアが騎士様にそう話しかけると、騎士様はこてりと首をかしげる。
「こんばんは。今から出かけるの?」
兜の下から聞こえてくるのは、少し幼さを孕んだ青年の声だ。どうやら新入りらしい。騎士様に向けてスミアは頷くけれど、彼はなかなか通そうとしない。私たちは少しむっとする。自分たちの要望がすんなり通らないと、まだ感情がささくれ立ってしまう。
しかし、彼は規律をしっかり守っている。あまり孤児をむやみに外に出してはいけないという規律を。その規律の存在を知ったのも、つい最近のことだけれど。騎士コースに行こうとしているシエルが授業で習ったそうだ。
「明日ではだめ?」
「この夜だからこそ、会いに行きたいのです」
なおも迷ったような様子を見せる騎士様にしびれを切らし、スミアの両手が彼女のスカートをつかんで、スカートにしわがついてしまいそうなほどに強く握りしめられる。これは、スミアが爆発する寸前の合図だ。止めなければならない。
私はそう考え、スミアをなだめようと口を開く。しかしそれより早く、スミアの口から弾丸が飛び出そうとする。
「騎士様。わたくしたちはいつも……」
「ああ、その子たちはちょくちょく星読み様の所へ遊びに行っているのさ。呑み込みも早く、星読み様達もその子たちが遊びに行くと喜ぶのだそうだ。通してやりなさい」
スミアの言葉にかぶせるようにして、後ろから声がした。私が振り向くと、そこには顔見知りの老騎士様がいた。私たちのことをいろいろと気にかけてくれている方だ。
スミアもたてつこうとするのをやめて、静かに老騎士様の方を振り返る。騎士様も、静かに老騎士様を見た。
「老騎士様……」
私の口から思わずぽつりと声が漏れた。少し助けを乞うような気持が入り混じっていたようで、老騎士様は私のほうに歩み寄り、ぽん、と私の頭に手を置いた。兜の下の老騎士様の口元は、少し微笑んでいるように見えた。
「あまり気にしなくて良い。私が君たちに何かあった時の責任を取ろう。行ってきなさい」
老騎士様が穏やかな声音でそう言った。騎士様はいろいろ飲み込んだらしく、少し時間は開いたものの老騎士様に向かって一礼すると、あまり音を立てないようにしながら門を開く。
「いってらっしゃい。あまり遅くはならないように」
騎士様の言葉に私は頷いた。しかし、スミアは黙り込んで不動の状態だ。私はスミアの手を開かせて、その開いた手を握る。
「行こう、スミア。許可が出たよ」
私が少し手を引っ張ると、スミアはようやく歩き出してくれるが、まだうつむいたままだった。一度振り返れば、ゆったりと手を振る老騎士様と、静かにこちらを見ている騎士様が目に入った。私はこくりと頷くようにしながら小さく頭を下げて、スミアの隣で何も言わずに歩いた。
「ああいう方もいるのね」
ふいに彼女はそうつぶやく。スミアは少しぼんやりとしているようで、あまりその声に覇気が感じられなかった。心なしか、少し頬が火照ってる気がする。
「今日は疲れてるね」
私がそう言うと、スミアは額に手を当てて、前髪をかき上げた。思わず手を伸ばしていた。そっと頬に手を当てると、少し熱く感じた。
「今日は早めに休む?」
「いいえ、星を見るわ」
スミアは少し頑固なところがあるけれど、真面目なのだ。社交にかなり優れているけれど、勉強もまじめにやるし、運動だってできないと言う事ではない。優等生をするのは、少し大変なのだと私は知っている。だからこそ、スミアのことを私は尊敬するのだ。そして、少し心配でもある。
スミアには野望があるらしい。いずれ偉くなって、お父様やお母様に会いに行くのだそうだ。スミアが捨てられてしまったのは、貧しい貴族だったから。いつか二人を助けに行く、そう繰り返して頑張っていた。そして、真面目だからだろうか、時々根を詰めすぎるのだ。
今疲れているのは、そろそろ試験があり、勉強を頑張っているからだと思う。そして、そういう時は息抜きをさせることも大事だと、どこかの本で読んだ。
「わかった。でも、無理しちゃだめだよ。スミアの体調は、スミアが一番よくわかってるでしょ」
「……説教じみたことを言わなくていいわよ、プレノ。でもまあ、心配してくれてありがとう。そうね、少し無理しているかもしれない。今日は早めに切り上げることにする」
スミアは足を止めて、私の方を振り向いて弱弱しく微笑んで見せた。やっぱりいつもと違う。星を見て、すぐに帰った方がよさそうだ。
「こんばんは、騎士様。わたくしたち、星の宮に行きたいのですけれど、今から可能でしょうか?」
スミアが騎士様にそう話しかけると、騎士様はこてりと首をかしげる。
「こんばんは。今から出かけるの?」
兜の下から聞こえてくるのは、少し幼さを孕んだ青年の声だ。どうやら新入りらしい。騎士様に向けてスミアは頷くけれど、彼はなかなか通そうとしない。私たちは少しむっとする。自分たちの要望がすんなり通らないと、まだ感情がささくれ立ってしまう。
しかし、彼は規律をしっかり守っている。あまり孤児をむやみに外に出してはいけないという規律を。その規律の存在を知ったのも、つい最近のことだけれど。騎士コースに行こうとしているシエルが授業で習ったそうだ。
「明日ではだめ?」
「この夜だからこそ、会いに行きたいのです」
なおも迷ったような様子を見せる騎士様にしびれを切らし、スミアの両手が彼女のスカートをつかんで、スカートにしわがついてしまいそうなほどに強く握りしめられる。これは、スミアが爆発する寸前の合図だ。止めなければならない。
私はそう考え、スミアをなだめようと口を開く。しかしそれより早く、スミアの口から弾丸が飛び出そうとする。
「騎士様。わたくしたちはいつも……」
「ああ、その子たちはちょくちょく星読み様の所へ遊びに行っているのさ。呑み込みも早く、星読み様達もその子たちが遊びに行くと喜ぶのだそうだ。通してやりなさい」
スミアの言葉にかぶせるようにして、後ろから声がした。私が振り向くと、そこには顔見知りの老騎士様がいた。私たちのことをいろいろと気にかけてくれている方だ。
スミアもたてつこうとするのをやめて、静かに老騎士様の方を振り返る。騎士様も、静かに老騎士様を見た。
「老騎士様……」
私の口から思わずぽつりと声が漏れた。少し助けを乞うような気持が入り混じっていたようで、老騎士様は私のほうに歩み寄り、ぽん、と私の頭に手を置いた。兜の下の老騎士様の口元は、少し微笑んでいるように見えた。
「あまり気にしなくて良い。私が君たちに何かあった時の責任を取ろう。行ってきなさい」
老騎士様が穏やかな声音でそう言った。騎士様はいろいろ飲み込んだらしく、少し時間は開いたものの老騎士様に向かって一礼すると、あまり音を立てないようにしながら門を開く。
「いってらっしゃい。あまり遅くはならないように」
騎士様の言葉に私は頷いた。しかし、スミアは黙り込んで不動の状態だ。私はスミアの手を開かせて、その開いた手を握る。
「行こう、スミア。許可が出たよ」
私が少し手を引っ張ると、スミアはようやく歩き出してくれるが、まだうつむいたままだった。一度振り返れば、ゆったりと手を振る老騎士様と、静かにこちらを見ている騎士様が目に入った。私はこくりと頷くようにしながら小さく頭を下げて、スミアの隣で何も言わずに歩いた。
「ああいう方もいるのね」
ふいに彼女はそうつぶやく。スミアは少しぼんやりとしているようで、あまりその声に覇気が感じられなかった。心なしか、少し頬が火照ってる気がする。
「今日は疲れてるね」
私がそう言うと、スミアは額に手を当てて、前髪をかき上げた。思わず手を伸ばしていた。そっと頬に手を当てると、少し熱く感じた。
「今日は早めに休む?」
「いいえ、星を見るわ」
スミアは少し頑固なところがあるけれど、真面目なのだ。社交にかなり優れているけれど、勉強もまじめにやるし、運動だってできないと言う事ではない。優等生をするのは、少し大変なのだと私は知っている。だからこそ、スミアのことを私は尊敬するのだ。そして、少し心配でもある。
スミアには野望があるらしい。いずれ偉くなって、お父様やお母様に会いに行くのだそうだ。スミアが捨てられてしまったのは、貧しい貴族だったから。いつか二人を助けに行く、そう繰り返して頑張っていた。そして、真面目だからだろうか、時々根を詰めすぎるのだ。
今疲れているのは、そろそろ試験があり、勉強を頑張っているからだと思う。そして、そういう時は息抜きをさせることも大事だと、どこかの本で読んだ。
「わかった。でも、無理しちゃだめだよ。スミアの体調は、スミアが一番よくわかってるでしょ」
「……説教じみたことを言わなくていいわよ、プレノ。でもまあ、心配してくれてありがとう。そうね、少し無理しているかもしれない。今日は早めに切り上げることにする」
スミアは足を止めて、私の方を振り向いて弱弱しく微笑んで見せた。やっぱりいつもと違う。星を見て、すぐに帰った方がよさそうだ。



